第19回 イーグルス《ホテル・カリフォルニア》~その原点にある思想 |AERA dot. (アエラドット)

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第19回 イーグルス《ホテル・カリフォルニア》~その原点にある思想

文・大友博

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 1976年2月に武道館などで初来日公演を行なったイーグルスは、ハワイ経由でアメリカに戻り、翌月から、バーニー・リードンに代わってジョー・ウォルシュが参加した新編成で『ワン・オブ・ディーズ・ナイツ』につづくアルバムの制作に取り組んでいる。それから半年もの時間をかけ、並行してけっこうな頻度でステージにも立ちながら完成させたのが、あの『ホテル・カリフォルニア』だった。同年暮れに発表されたこのアルバムの完成度は、ドン・ヘンリーとグレン・フライを中心としたバンドの創作意欲が頂点にあったことを示すものであり、商業面で大きな成功を収めただけでなく、時代の精神を象徴する作品として、現在に至るまで、各方面からきわめて高く評価されたてきた。たとえば米ローリングストーン誌が2003年に編んだ歴代名盤500選では37位にランクされている。

 2013年発表の映像作品『ヒストリー・オブ・ジ・イーグルス』でも詳しく語られているが、永遠の名曲の一つに数えられることとなるそのタイトル・トラックは、ドン・フェルダーが自宅で制作したデモ音源をもとにして生まれたものだという。カセット・テープでその音を渡されたドンとグレンは、すでに軽く加えられていたレゲエのリズムと哀愁を感じさせるメロディ・ラインになにか大きな可能性を感じたそうだ。そして、アルバム全体のテーマとなる歌詞を書き上げ、細部を整え、キーやテンポを何度か変え、7分近い曲に仕上げていった。

 アコースティック12弦ギターの美しい響きを生かしたイントロで、まず深く引き込まれてしまう。ベース、エレクトリック・ギター、シンバルなどがそこに加わっていき、ドン・ヘンリーがタムを2回、力強く叩いたあと、《ホテル・カリフォルニア》のいわば本編がスタートする。映画的な展開で、それは本人たちも強く意識していたのかもしれない。そして、04:19から、多くのアマチュア・ギタリストたちに驚きを与えたあの長いギター・パートへと入っていく。

 最初はドン・フェルダー。彼を新たなギター・ヒーローの地位へと一気に押し上げた《ワン・オブ・ディーズ・ナイツ》でのあの端正で力強いソロの続編と呼べるような8小節だ。そしてそこに、ジョー・ウォルシュが、ちょっとつっかかるようなリズムで斬り込んでくる。身体を少し前に倒し、左腕の肘を直角に曲げた感じでギターと向きあう、あの独特の姿勢が目に浮かんでくるようなソロだ。つづく8小節は、いわゆるギター・バトル。まずフェルダーが2小節を弾くと、それを受けてウォルシュが2小節。後半の4小節では2本のギターが完璧なハーモニーを聞かせ、そして、ベースも含めて何本ものギターが響き渡るあのドラマチックな終盤へと入り込んでいく。

 イーグルスの基本的な姿勢は、レコーディングの段階で完成した曲の流れを、可能なかぎり細部まで、ライヴでもそのまま聞かせるというものだ。つまりインプロヴィゼイションの要素はほとんどなく、これに関しては、賛否、好き嫌い、さまざまだと思うが、もちろん《ホテル・カリフォルニア》の伝説も、約40年間、メンバー構成が変わっても、そのようにして守られてきた。

 ドン・フェルダーが原型をつくり、ドン・ヘンリーとグレン・フライが曲に仕上げた《ホテル・カリフォルニア》は、カリフォルニア賛歌でも、ましてやホテルを舞台にしたラヴ・ソングでもない。1994年にヘンリーにインタビューする機会を得た際、そのテーマについて聞くと彼は、「文明社会が犯してきた過ち」と答えた。そして、その思想や視点の原点にあるのは、学生時代の熟読したヘンリー・デイヴィッド・ソロウだということも教えてくれた。

 ドン・ヘンリーは90年代初頭から、非暴力主義の元祖とも呼ばれるその偉大な著述家がかつて暮らしたウォルデンの森を開発の手から守る運動に取り組んでいた。その活動を支援する目的でカントリー系アーティストたちによるイーグルス名曲集『コモン・スレッド』が制作されることとなり、それがきっかけで94年の再結成が実現したのだった。ちなみに今年(2017年)夏のフェスティヴァルなどでは、そのアルバムにも参加していたヴィンス・ギルがグレン・フライのパートを務めるという。[次回7/12(水)更新予定]


(更新 2017.7. 5 )


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プロフィール

大友 博 (おおともひろし)

1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。

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