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第69回 エリック・クラプトン セッション・ワークス #1

文・大友博

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 エリック・クラプトンの、半世紀以上に及ぶ音楽活動をアルバム制作・発表の軌跡を追う形で振り返る。しかも、一般的なスタイルのアルバム紹介ではなく、それぞれの時期の状況や人間関係、精神状態、時代背景にも可能なかぎり触れていく形で。そういったコンセプトで進めてきたこの連載、前回取り上げたアンソロジー『フォーエヴァー・マン』でいったん終了ということになるのだが、今回からはしばらく、オリジナル・アルバム以外の注目作品、積み残してしまったアルバムなどを紹介していきたいと思う。番外編ということだ。

 まずは、クラプトンが一人のギタリストとして仲間や友人のレコーディングに貢献した作品。セッション・ミュージシャンという言葉は正確ではないかもしれないが、それはともかくとして、彼は、大物アーティストとしては異例とも思えるほど数多くの作品にゲスト参加している。ただし、すでに紹介したビートルズの《ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス》など、あの特徴的なリード・ギターで主役を喰ってしまったものばかりではなく、地味にバックに徹している曲も少なくない。妥協を嫌い、極端にいえば自分らしくブルースを追求することをなによりも大切にしてきたソロ・アーティストとしての活動と、どこかでバランスをとっている、ということでもあるのだろうか。

 ごく初期のセッション・ワークの代表作として紹介したいのが、1967年の12月、ミシガン州デトロイトでのクリームの年末公演の直前、ニューヨークのアトランティック・スタジオで録音されたアレサ・フランクリンの《グッド・トゥ・ミー・アズ・アイ・グッド・トゥ・ユー》だ。収録アルバムは翌68年発表の『レイディ・ソウル』。

 そのタイトルが示すとおり、すでに超大物となっていた彼女の作品への参加を仕組んだのは、アーメット・アーティガン。自叙伝によれば、ニューヨーク滞在中、彼から電話をもらってスタジオに向かうと、コントロール・ルームにはアレサがいて、さらには、マッスルショールズ系の優秀なスタジオ・ミュージシャンたちやエンジニアを務めたトム・ダウドらがずらりと並んで待っていたという。

 予期せぬ展開に、クラプトンは緊張した。しかも彼は、譜面を渡されてその場で弾きこなす、いわゆる初見OKというタイプのミュージシャンではない。しかしともかく、背伸びをすることもなく、あくまでも控えめながら、彼らしいプレイを残し、《グッド・トゥ・ミー・アズ・アイ・グッド・トゥ・ユー》は完成した。

 22歳のときのその仕事をクラプトンは、「私の人生のハイライトの一つ」とも語っている。そこでの手応えの強さが、「異例とも思えるほど数多くのセッション・ワーク」に彼を向かわせたのかもしれない。

 ソウル/R&B系だけでも、ここでそのすべてをあげることは不可能なのだが、あと2枚だけ紹介しておこう。1枚目は、アレサの後継者と呼ばれることも多いメアリー・J・ブライジの99年発表作『メアリー』。ダイアン・ウォーレン作の《ギヴ・ミー・ユー》では、アコースティック・ギターで、やはり彼女が書いた《ブルー・アイズ・ブルー》を彷彿させる美しいプレイを聞かせている。

 もう1枚はサム・ムーア(サム&デイヴ)が2006年に発表した『オーヴァーナイト・センセイショナル』。ブルース・スプリングスティーンやスティーヴ・ウィンウッド、ジョン・ボン・ジョヴィ、マライア・キャリーらも参加し、ムーアの影響力の大きさをあらためて教えてくれたこのアルバムで彼がギターを弾いたのは《ユー・アー・ソー・ビューティフル》。この名曲の作者で、クラプトンのレコーディングやツアーの常連の一人でもあったビリー・プレストンも参加しているのだが、彼はこのすぐあとに亡くなっている。 [次回10/14(水)更新予定]


(更新 2015.10. 5 )


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プロフィール

大友 博(おおとも・ひろし)

 1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。

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