『ケニー・ドリュー・トリオ』(Riverside)
『ケニー・ドリュー・トリオ』(Riverside)

 バド・パウエルのピアノ・スタイルを継承したピアニストを“パウエル派”などと呼ぶが、前回のソニー・クラークと同じく、ケニー・ドリューのスタイルはまさにバド・パウエル直系と言っていいだろう。とりわけ初期のブルーノート盤『ケニー・ドリュー・トリオ』などは完全にパウエルのコピーで、よほどのベテランでも聴き間違えてしまいそうなほどそっくりだ。

 とは言え、彼もまた多くのパウエル派ハードバップ・ピアニストの例に漏れず。似ているのは表面的な奏法だけで、天才パウエルの持つ、ある意味では気難しい部分は受け継いではいない。言ってみれば彼は「わかりやすいパウエル」なのだ。だからこそドリューは、ジャズを聴き始めたばかりのファンからも受け入れられのだろう。

 実際、彼のノリの良いピアノは誰が聴いてもジャズピアノの醍醐味を実感できる。また、50年代60年代ハードバップ・セッションの脇役に回ったドリューの軽快にしてダイナミックなバッキングは、ホーン奏者を勢いづけ、いやがうえにも演奏の熱気を高める絶大な効果を発揮している。

 こうしたドリューも60年代に北欧に移住してからは少しスタイルを変え、特に70年代に入るとクラッシック的とまでは言えないけれど、躍動感よりはロマンチックな面を強調した演奏が多くなり、ちょっとイメージを変えた。それぞれの良さがあると思うが、やはり彼の持ち味を生かしているのはハードバップの全盛期である50年代に吹き込まれたこのアルバムだろう。

 一般のジャズファンがジャズに抱く、リズミカルでドライヴ感タップリな演奏が収録されている『ケニー・ドリュー・トリオ』(Riverside)は、彼の代表作であるばかりでなく、日本のジャズファンが大好きなハードバップ・ピアノトリオ・アルバムを代表する傑作と言って良いだろう。快適なリズムに乗って音楽が推進していく心地よさと、ピアノならではのメリハリの利いたフレージングが合体したドリュー節が心行くまで堪能できる推薦盤だ。

【収録曲一覧】
1. キャラヴァン
2. 降っても晴れても
3. ルビー、マイ・ディア
4. ウィアード・オー
5. テイキング・ア・チャンス・オン・ラヴ
6. 星に願いを
7. ブルース・フォー・ニカ
8. イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン

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ケニー・ドリュー・トリオ (p), ポール・チェンバース (b), フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)