中島晶子
安住拓哉
...024年上半期ランキング ライフ編6位〉資産270億円cis×利益100億円テスタ対談「5年で1200万円を50億円に増やした特殊能力とは」
cisさんとテスタさん(撮影/朝日新聞出版写真映像部・上田泰世)
早いもので、2024年も折り返しです。1月~6月にAERA dot.に掲載され、特に多く読まれた記事をジャンル別に、ランキング形式で紹介します。ライフ関係の記事の6位は「資産270億円cis×利益100億円テスタ対談『5年で1200万円を50億円に増やした特殊能力とは』」でした(この記事は5月30日に掲載したものの再配信です。年齢や肩書などは当時のもの)。
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総資産270億円のレジェンド投資家・cisさんと利益100億円投資家のテスタさんの対談第1回(全4回)。初回はcisさんが株で成功できた理由(特殊能力?)をテスタさんが探る。メディア取材を受けないcisさんの話は貴重!
(本記事はアエラ増刊「AERA Money 2024春夏号」から抜粋しています)
2024年2月16日、獲得総利益100億円を達成したテスタさん。これを祝うべく、スペシャル中のスペシャルゲストをお招きした。
テスタさん自身も熱望していたそのお相手は、ご存じcisさんだ。cisさんといえば現在の総資産270億円のレジェンドトレーダー。メディアにほとんど登場することのないお方だが、今回は特別だ。
対談の舞台は、お2人が日々、トレードに明け暮れてきた主戦場の東京証券取引所。2大カリスマ投資家の夢の対談が、ついに実現した。
【近況編】
(編集部)今回はテスタさんが総利益100億円を達成した記念対談としてcisさんをお招きしました。cisさんの総資産は現在、どれぐらいなんでしょうか?
(cis)200億円から300億円ぐらい……かな?
(編集部)今はもう数えるのもやめてしまわれましたか?
(cis)いや、そんなことはないです。なんとなく把握してますよ。これから損するかもしれないし、税金もあるんで、250億円、いや270億円にしておきましょうか。
(テスタ)おお〜っ、増えてる、増えてる。(と小さな声でつぶやく)
東証に来たのは初
(cis)テスタ、100億円達成おめでとうございます。最近会ってなかったよね。ほんとに、おめでと。
(テスタ)お久しぶりですよね。最初にお会いしたのは、たぶん8年くらい前だと思います。
(cis)あの頃、ゲームセンターでスロットやって遊んだりしたよね。
(テスタ)ごはんも何回かご一緒させていただきました。僕、1回も、1円も払ったことがなくて、毎回、常に、cisさんに出してもらってるんですけど……。
東証に来たのははじめてですか?
(cis)はじめてですね。
(テスタ)え〜、そうなんですか。って僕も2回目なんですけど(笑)。意外に来ないもんですよね。
(編集部)あまり知られていませんが、東証の施設は平日午前9時から午後4時半まで(最終入館時間は午後4時)なら誰でも無料で見学可能だそうです。
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cisさんはスリムな好青年だった(撮影/朝日新聞出版写真映像部・上田泰世)
(cis)昔は年末の大納会に東証へ行くと蕎麦がもらえたらしくて、自分の周りでも行く人がいましたが。12月30日でしょ。冬で寒いじゃない。わざわざ蕎麦もらいに寒さこらえて行くのか、って(笑)。
(テスタ)行ってみようと思ったことはなかったんですか? 1回ぐらい東証を見てみたいとか……。
(cis)ないですね。(サクッ)
(テスタ)まあ、僕も用事がないから来なかった(笑)。来るところというより、取引でお世話になっているところだという目で見ていただけ。
板は目視で反応できた
(cis)最近は、マイクロ秒とかナノ秒で自動的にバンバン注文が出るじゃない。アルゴリズムトレード(コンピューターシステムが数量やタイミングを決めて自動的に注文を繰り返す高速取引)で動いてるんで、東証の近くのどんな証券会社がそのアルゴのシステムを作っているのか、見に行きたいと思ったことはありますよ。
(テスタ)やっぱり、ナノ秒とかになってくると東証に近ければ近いほど約定(やくじょう)しやすいって理屈になるんでしょうかね。距離がモノをいう感じで。
(cis)そうです。
(テスタ)毎日取引していると、コンピューターの高速売買みたいなのって気になりますか? 昔は今より遅かったし。
(cis)めちゃくちゃ気になる。前は呼び値や板の更新時間を見ていれば楽勝で反応できるぐらいの速度でした。あれ、4秒に1回くらいだったんですかね。
(編集部)2010年にアローヘッドという高速売買システムが導入されました。それ以前は、正確に言うと「2秒に1回更新」という時代がありました。
(cis)2秒だったか。そのときから比べると様変わりしてしまって。パソコンの前に張り付いているから勝ちやすいってことはなくなった気がしますね。今はリスク管理のために決済注文だけはセットしつつ、モニターで取引状況を見てるみたいな感じですね。
【cisさん5年で50億円編】
(編集部)cisさんは元手いくらぐらいで株をはじめたんですか?
(cis)最初に入れたのは300万円ぐらいでした。昼間働いて、残業もして、もらえる給料は手取り20万円ちょっとだったかな。当時は実家暮らしだったので5万円を家に入れて、残りは全部(証券口座に)入金してました。
さわやか笑顔のテスタさん、実は緊張もしていたそう(撮影/朝日新聞出版写真映像部・上田泰世)
(編集部)ということは毎月15万円を証券口座に入れていた、と。
(cis)そうですね。開始時点の元手が大した金額じゃないから給料を丸ごと突っ込んでたわけで。
(編集部)cisさんが株をはじめたのは、いつですか?
(cis)金融ビッグバン(※)が2000年前後でしょ。そのときに証券口座を開いたのよ。株取引自体は2002年にはじめました。最初は短期トレードって感じじゃなくて「買ったけど失敗」みたいなのが多かったです。
※金融ビッグバン…1996年に提唱され、2001年にかけて実行に移された金融制度の自由化、グローバル化などの金融システム改革
(編集部)そこから5年後の2007年には資産50億円を達成されていますね。
(テスタ)手取り20万円で、実家に5万円入れて、毎月15万円入金かぁ。最初に300万円を入れて、年間180万円の入金を5年ってことは、財布から出したお金が1200万円。それが5年で50億円って……とんでもないスピード……。
株の手数料1%
(編集部)テスタさんが株をはじめたのはいつですか?
(テスタ)僕は2005年からはじめました。
(cis)新興イケイケ〜からの、ライブドア・ショックの時期ですね。
(テスタ)ライブドア・ショックが2006年1月。それが株の売買をはじめて半年後ぐらいなんですが、そのときにはもうcisさんってカリスマトレーダーと言われてました。2007年になると、もう確実に有名人。
(cis)当時はメディアに登場するトレーダーが少なかったのもあるかも。株の売買手数料が自由化されて間もない時期だったし。1回の取引で売買手数料を1%とか(※)払ってたら、なかなか個人は勝てないよね。僕は金融ビッグバンのときに20歳になったから、自由化後のトレーダー1期生って感じで。
※株式の売買手数料が1999年10月に完全自由化される前は約定代金100万円で1万1500円、500万円で4万7500円、1000万円で8万2500円などの固定だった
「cisさんとテスタさんの対談・撮影をさせてください(タダで)」というAERA担当編集の無茶なお願いを快諾。さらに涙モノの演出までしてくれた東京証券取引所さん、本当にありがとうございました!(撮影/朝日新聞出版写真映像部・上田泰世)
(テスタ)cisさんと僕がはじめて出会ったときは、まだデイ(トレード)やスキャ(ルピング)ばかりしていたと思いますが。cisさんから見て、僕はどういう印象でしたか?
※デイトレード…1日の間に売り買いして損益を確定させる取引、スキャルピング…数秒、数分単位の超短期取引
(cis)印象って?
(テスタ)僕の中ではcisさんやますぷろさん、降臨さん、三空さんが第1世代なわけですよ。むらやんさん、武者修行中さん、けむ。さん、僕なんかが第2世代っていうイメージなんですけど。
(cis)テスタの印象か。なんとなくだけど、ファンダ(※)と需給(買い〈需要〉と売り〈供給〉の量で売買判断)のハイブリッドタイプなのかな、と。
※ファンダ=ファンダメンタルズ…業績や指標などで投資判断をすること。直訳としては、経済の基礎的条件
cisさんは需給派
(テスタ)cisさん自身はどうなんですか? 需給だけで売買してますか、ファンダも見ますか?
(cis)ほぼ需給だけ。ファンダの情報は倒産リスクとか、公募増資リスクとか、そういうリスク管理に使ってる感じです。あ、リスクとリターンの見積もり用に「同じ業種の銘柄がどのくらいの時価総額なのか」は見たりしますね。「これから業績が伸びそうかどうか」は、あまり気にしない。
(テスタ)それは、cisさんが相場の需給を読んでトレードするのが得意だから、需給メインにしてるんですか? それともcisさんの能力と関係なく「投資で一番効率的なのはファンダより需給だ」と思ってるからですか?
(cis)一番効率的かどうかはわからないけど。需給で判断すれば「今買われてる株は現時点で確実に買われているわけだから、自分も買う。ダメそうなら、売る」ってことができるよね。何度も買ったり売ったりを繰り返せるじゃない。
(テスタ)はい。
(cis)でもファンダは……「これから伸びる」「来期の業績がいい」なんて、数年がかりの話だから何度もやり直せない。しかも判断をミスると足踏みになっちゃうでしょ。やっぱり何回も何回も売買して利益を出せたほうがいいと思って、需給のほうに特化したんだけど。
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巨大ボードにも対談時だけお二人の名前を入れてくれた東証(撮影/朝日新聞出版写真映像部・上田泰世)
(テスタ)ファンダで売り買いする投資家の友達で井村俊哉くんという人がいます。井村くんはファンダ100%の人で、ここ何年かでバーッて世に出てきて、すごい速さで資産を伸ばしてるんです。いろんな上場企業の大株主に名前が出て、話題になってるんですが。井村くんのことは知ってますか?
(cis)井村さん? 詳しくは知らない。ツイッター(現X)で見たことあるけど、真の投資家というか……この会社がいいと思って投資して、あとは信じて待つ、みたいな。
(テスタ)「王道」に見えますか? 僕はcisさんと同じように業績の情報をトレードにあまり使いません。井村くんほどファンダに特化した人を見たことがなかったので、新しいなと思って。
(cis)数年がかりとか、1年単位でもいいけど、「来期の見通しがすごくいい」とかを予想して、なおかつ株価の上昇も当てるっていうのは繰り返しできることじゃないと思う。業績を読んで大きな利益を上げる人が世の中にいっぱいいるかもしれないけど、それで大当たりを何回も出せるとしたら、時代もあるかな、と。
(テスタ)時代、かぁ。今と比べると2000年代はたくさんのトレーダーがいましたよね。その中でもcisさんの成績は飛び抜けてすごかったです。今もそうですけど。
(cis)そうね、数字的にはね。
cisさんの特殊能力
(テスタ)どうして最初からあんなにすごかったんでしょう。他の人とここが違うとか、分析されてますか?
(cis)資金が少ない頃は信用取引でレバレッジをかけて売り買いして、それに成功したっていうのが結構大きいかな、スタートダッシュに成功したという意味では。あとは……あんまり銘柄にこだわらないで、一番上がりそうな銘柄に集中投資してた。『ちょっとどうなるかわかんないな〜、勢いがなくなったかな〜』ってなったら売って、さっさと他の値動きのよさそうな銘柄に乗り換えていくっていう感じ。銘柄に固執しなかったのがよかったんですかね。
(テスタ)そのスタイルは他の人がまねできなかったものなんですかね。『何かしら自分はこういう特殊能力を持ってるんじゃないか』と思ったことは?
(cis)上がると思って1000円で買った株が950円になっちゃったら、明らかに損してますよね。自分の予想と逆に行っちゃってる。そこですぐに950円で売るっていう損切りができない人って、多いと思うんですよ。わかるけどね。精神的にもつらいし、950円になってるから金銭的にも痛いし、しょうがないけど。
(テスタ)損切り、早そうですね。
(cis)僕は、人の心を持ってないんで(笑)。損しても「次はどうしたほうが得か」ってことしか考えてない。
(テスタ)人の心がないって(笑)。
(cis)マイナスが出てしまっても「買った株が下がって失敗してしまったな」なんて思うことはない。それより「次、売ったほうがいいかな? 売らないほうがいいかな? 他の銘柄を買ったほうがいいかな?」って、そんなことばっかり考えてるんです。
(テスタ)本当に「次!」なんですね。
(cis)普通の人は「損したくない」「何パーセント儲けたい」「いくらぐらい利益が出たらいいな」って思ってるでしょ。でも僕はいくら儲けてもいくら損しても、『次はこれを売ったほうがいいのか、どの銘柄がいいのか』ってことばっかりなんで、その辺がちょっと違うのかもしれない。
期待値で考える
(テスタ)最初からそういう考え方だったんですか? それとも、そう考えられるように訓練したからですか?
(cis)う〜ん、どうなんだろうな(と考え込む)。もしかしたら、若い頃、アルバイト代わりにパチプロみたいなことをやっていたのが役に立ってるかも。
(テスタ)へぇ。
(cis)パチンコ台のスペックと1000円当たりの回転率から想定される時給と日当を自分なりに割り出すのよ、期待値として。当時13時間とかぶっ通しでパチンコを打って、日当感覚で稼いでたんだけど。日当の期待値が6万円から8万円のときなんて、もうず〜っと打ってました。期待値が高い台だと1回も当たらないってことはめったにない。
(テスタ)(無言で聞き入る)
(cis)でも、当たらないときは本当に当たらなくて。日当の期待値が8万円と思っていた台で10万円損することもありました。結局、期待値が高い台をやり続けることが僕の唯一の必勝法になった。しまいには期待値8万円の台をず〜っと打って、10万円損してしまっても『いや〜、いいお店だったな』みたいな気持ちで店を出るようになった(笑)。
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(テスタ)ほとんど修行ですね(笑)。
(cis)ほんと、そんな感じよ(笑)。若くて多感な時期に毎日、そんなことをパチンコ屋でやっていたのが修行になったのかも。
(テスタ)う〜ん、なるほど、なるほど。それは確かにありそうですね(と、かなり納得した表情)。僕も似たような感覚があって。期待値で考えるのは、たぶん株の世界でもパチンコの世界でも大事なことかなと思います。
※第2回目(全4回)に続きます
(構成/安住拓哉、中島晶子・AERA編集部)
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cis(シス)/1979年3月生まれ。法政大学卒業後、会社員として働く傍ら、2002年に貯金300万円を元手に株式投資をはじめる。資産6000万円に到達した2004年に会社を辞め、専業トレーダーに。2007年に50億円の資産を築き、デイトレーダー界のスターになる。X(旧Twitter)のフォロワー数は62万人超(2024年4月現在)。2024年3月現在の資産は「270億円ぐらいかな」。メディア取材はほぼすべて断っているが、今回の対談は特別
テスタ/兵庫県生まれ。2005年に株式投資の世界に飛び込み、専業トレーダーに。最初はスキャルピング(超短期取引)を中心としたデイトレードからスタート。ITバブル崩壊、リーマン・ショックなど、幾多の市場暴落で退場するトレーダーが続出する中、寡黙に荒波を乗り越えてきた。2021年8月に総利益50億円を達成、2024年2月に同100億円を達成。投資先のメインは日本株、先物
編集/綾小路麗香、伊藤忍
※『AERA Money 2024春夏号』から抜粋
AERA
2024/07/05 17:00