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 視聴率は初回から低迷。しかし、SNSなどのネット上では、「よくやってくれた」と、やんやの喝采を浴びている。

 その物語は実に挑戦的だ。ある日、仲間をボコボコにされたトビオ(窪田正孝)たちは、いたずら心で不良たちの通う高校に小型爆弾を仕掛けた。「ちょっとビビらせてやろう」のはずが、まさかの大爆発が起き、10人の死者を出す大惨事に…。トビオたちは爆破事件の容疑者となり、家族や好きな子と別れて逃亡する――。

 同作は、ただの逃亡劇ではなく、罪悪感と現実逃避、友情と裏切り、理性と欲望の間で揺れる姿を描く人間ドラマ。未熟だからこそ迷い、間違い、それでも成長していく高校生の人間くさい姿が生々しく映し出されている。喝采を浴びているのは、それらを際立たせるために、暴力、エロ、いじめ、喫煙などの際どいシーンを躊躇なく放送しているからだ。

 法令遵守とクレーム対策で表現の自主規制が進むなか、21時台の放送であることも含め、同作は異例尽くし。当然と言うべきか、BPOに苦情が寄せられ、討論されたが(審議は見送り)、制作サイドに屈する様子は見られない。そもそも暴力やエロは単なる話題性狙いではなく、視聴者にスリルやドキドキを感じさせ、感情移入を促すための演出だけに、その姿勢は当然だろう。ただ、昼ドラ「やすらぎの郷」で倉本聰が嘆いているように、萎縮傾向にある昨今の制作事情を踏まえると、胸がスカッとするのだ。

 今後の業界を担う若手俳優たちに暴力をふるわせるほか、主演俳優はゴミ箱の廃棄ドーナツを食べ、同性愛者に押し倒される始末。さらに17歳の女子高生女優と元AKB48のアイドル女優に濡れ場を仕掛けるなど、思い切りの良さは特筆すべきものがある。ところが、「カンテレが制作している」と聞けば、納得できる人は多いのではないか。思えば前期の「CRISIS」、前々期の「嘘の戦争」も、法令遵守やクレームなんてどこ吹く風の挑戦的な作品だった。その心意気は必ずしも視聴率にはつながらないが、間違いなく熱狂的ファンを生んでいる。

 昨年10月、カンテレが約20年にわたって放送していたドラマ枠が22時台から21時台に移動した。結果的に22時台は後発のTBS「火曜ドラマ」が単独の連ドラ枠となり、「逃げるは恥だが役に立つ」「カルテット」「あなたのことはそれほど」が立て続けに高視聴率や絶賛を獲得。関係者の忸怩たる思いは想像に難くないだけに、ささやかながら「カンテレさん、いつも攻めてますね」とエールを送っておきたい。

※『GALAC(ぎゃらく) 10月号』より

木村隆志(きむら・たかし)/暴力もエロもイジメも喫煙も、ドラマのエンタメ性を高める重要なものに違いない。そして、自分がそうだったように、「テレビ番組の中でダメなものを知る」という学びの機会もあってほしいと思う