元プロ野球選手の清原和博が覚醒剤所持で逮捕された2月3日と翌4日、安倍首相は衆議院予算委で“憲法9条2項”の改正に意欲的な発言をした。「押しつけ憲法」「(まったく変えないのは)思考停止」という憲法観で「私たちの手で憲法を書くべき」とも表明。

 しかし2日間ともNHKも民放各社もニュース番組では冒頭から清原に多くの時間を割いた。「改憲」を扱ったのも2月4日の「報道ステーション」を除いてわずか。首相の発言が以前より踏みこんだと報じたのは2月7日の「サンデーモーニング」だけだった。

 安保法制成立前の昨年6月に「9条を改正せよという状況になっていない」と発言していた首相。コメンテーターから「憲法9条2項が議論になるなら、なぜ安保法制の前に改憲の話をしなかったのか。私たちは騙されたのでは?」という疑問の声が上がった。“時系列で並べる”と見えるものは多い。

 憲法改正のような大きなテーマには多くの番組が熱心でなく、小さなスキャンダルに目を向ける。週刊誌を引用するだけでウラ取りしないニュースまで現れた。

 これまた『週刊文春』が第一報になったベッキーの不倫はフジ「みんなのニュース」が詳しく報道した。男性議員として初の育休取得を宣言した宮崎謙介衆議院議員が女性タレントと不倫した疑惑も文春が火付け役。従来、ニュースは「議員の不倫」など首相クラスでもない限り、報道しない習わしだったが、フジは2月9日の朝・昼・夕方・夜のニュース枠で文春情報を元に「スクープ直撃」と大きく報道した。

 この日は、高市早苗総務大臣が「政治的公平性がない場合は電波法で停波もありうる」と再び発言した日だ。放送の自由が関わる重大問題よりも不倫問題を先に報じ、扱いも大きかったフジ。他の社は不倫問題を扱わずに静観したが、12日に宮崎議員本人が議員辞職を表明して初めて全社がニュースで一斉報道した。

 定時ニュースで不倫問題を自らウラ取りせず報道するフジ。「ニュース」が壊れかけていないか。

●みずしま・ひろあき 法政大学社会学部教授(テレビ報道論)、元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター兼解説委員、札幌テレビ・ロンドン特派員、ベルリン特派員。近著に『内側から見たテレビ』。