人は必ず死ぬ。たとえコロナにかからなくても。ガンや脳出血や交通事故や老衰で死ぬ。しょうがないけど、あきらめられない。いつかは死ぬと知りながら、ぼくらはその日をできるだけ先延ばしにしようとする。

『もうダメかも 死ぬ確率の統計学』は、生まれてから老いるまで、人が遭遇するさまざまなリスクについての本だ。著者のマイケル・ブラストランドは数学についても造詣が深い作家・ジャーナリストで、デイヴィッド・シュピーゲルハルターはケンブリッジ大学統計研究所教授。

 本書の特徴は二つ。心配性の女性と冒険的な男性、平均的な男性という、3人のキャラクターによる物語を各章に置いたこと。もう一つは「マイクロモート」「マイクロライフ」という数値を使って、さまざまなリスクを比較していること。マイクロモートは100万人に1人が死ぬ確率で、マイクロライフは寿命を30分縮める可能性だ。

 出産や予防接種や薬物など、さまざまなリスクが出てくる。さながら人生における危険性百科事典のよう。文章は皮肉いっぱいで笑える。

 面白いのは、統計データと私たちが抱くイメージとのギャップだ。たとえば、飛行機で移動するよりも自動車のほうがはるかに死ぬ確率が高いが、飛行機のほうが怖いと感じる人は多い。手術の全身麻酔は10マイクロモート(10万回に1回死ぬ)で、スカイダイビング1回とほぼ同じだ。「○○を食べるとガンのリスクが△△%増える」なんていう情報の正しい読み方もこの本は教えてくれる。

 確率だけ気にしても、人生は楽しめない。

週刊朝日  2020年6月5日号