現役の書店員であり、独自の文学賞「新井賞」を設立した著者が、出版業界専門紙「新文化」に連載したコラムや書き下ろしエッセイを集めた。

 各コラムは2、3ページの短いものだが、着眼点は鋭い。第4回新井賞を授けた角田光代の『坂の途中の家』をはじめ、薬丸岳の『Aではない君と』や久住昌之、谷口ジローの『孤独のグルメ2』などを紹介し、「本が売れないと嘆く前に。」「書店はいつまで、無料で紙袋を提供できるだろうか。」などの題で仕事を通じて考えたことを綴る。また、他人の家で出される麦茶への違和感や、寂しさが自分に与えた力について分析を加える。

 日常の出来事と社会的な問題との重さに区別はなく、いずれもさらりとした口調で語られている。そのため読むことは容易だが、読み返すたびにまた違った味があらわれる。(若林 良)

週刊朝日  2019年1月18日号