町光太郎は猫である。珍しいオスの三毛猫だ。しかも高校1年生である。登校するときは人の姿に化ける。彼は化け猫の末裔なのである。なんじゃそりゃ!

 いやいや、この程度であきれてはいけない。樒屋京介『猫町くんと猫と黒猫』は、いかなるツッコミも跳ね返す猫の青春小説だ。

 舞台は広島県の尾道市。猫町は子猫のとき、町で喫茶店を営む猫町夫妻に拾われて成長し、猛勉強の末、高校に入学した。猫が多い町だけあり、猫町の高校にもあと2匹、猫が通っている。

 秋津先輩は、もともとは人間だったが、ある出来事がきっかけで人間不信になり、千光寺山で気がついたら猫になっていた。以来人間に戻れず、3年生になった現在も猫のまま通学している。今じゃ<俺は眠いから今日は保健室登校だ。あそこには毛布もあるし、クーラーも効いてるからな>なぞとホザく立派なワガママ猫である。

 夏目真之助は東京から来て1年生に編入した。彼はふだんは人間だが、ときに頭だけが黒猫に変身する妖怪猫だ。高校生だが探偵事務所を開き、<自分の力は仲間のために使うべきだと、おまえもいずれ気づく>とかいって、猫町にも仲間に入れとうるさい。

『吾輩は猫である』以来、猫がしゃべる小説は無数に書かれてきたけれど、この小説のミソは三猫三様の事情を持つ3人(3匹)がごく普通の高校生活を送っていることだろう。家族もクラスメートも、半人半猫である彼らを不思議とも思わず受け入れている。猫権が尊重されているわけだね。

 とはいえ青春真っ只中の猫町も悩みを抱えている。<人生八十年の人間とは違い、猫の寿命はせいぜい十数年。機が熟すのを待っていたら、僕はあっという間に爺猫になって冥途行きだ>。彼には時間がない。好きな女の子を前にモタモタしている暇はないのである。

 第17回小学館文庫小説賞優秀賞を受賞した、尾道出身作家のデビュー作。<我々は猫である。未来はまだ無い>は学年末試験の追試を前にした台詞だが、彼らの、そして町の未来はいかに。

週刊朝日  2018年12月28日号