前歌集から4年ぶりとなる第3歌集。あとがきによれば、「まずは編みたい一冊のかたちがあり、それをめざして歌を並べていった」という。
《ひとという火の体系をくぐらせて言の葉は刺すみずからの火を》
言葉が言葉を呼ぶ。イメージがイメージを連れてくる。肉体の希薄さ、抽象化。そういった現代詩の要素を取り入れた新たな試みを感じる。
《池に降る三月の雨、穏やかな水紋としてかつていた人》
《もう君は不在だったかこの朝の駐輪場は銀色の海》
そして君の「不在」が繰り返し示され、その対比として「みずからの火」の存在を強く意識させられていく。緊密に張られた言葉をつなぐ伏線を丁寧に読み解くことで、作者のめざした「一冊のかたち」に辿り着くことができるだろう。
※週刊朝日 2018年10月5日号