東京の観光ガイドは数あれど、ここまで街のディテールを詳述したものは珍しい。しかも本書は、そこに息づくものまでも解説しているのです。どういうことかと言うと、たとえば丸の内の街路樹。植生が皇居と同じであることを説明し、鳥たちの種を運ぶ営みについて思い出させてくれる。また、渋谷のんべい横丁の項。居酒屋のカウンターの形に着目し、L型はI型に比べて「客同士の視線も交わしやすく会話が生まれやすい」ことを教えてくれる。この本は、街を考察するためのガイドなのである。

 写真が一枚も使われていないのも特徴的。手描きのイラストは一見地味だが、適切な捨象によって情報が整理されておりわかりやすい。この本ではじめてレンガの積み方(イギリス積みとドイツ積み)を知りました。

週刊朝日  2017年12月1日号