土地の権利を巡る争いは今に始まった話ではない。特に江戸時代の百姓は生活の山への依存度は高く、利用権を巡り度々衝突し、訴訟が起きた。

 彼らが裁判に臨む姿勢は我々の想像を超える。大きな訴訟が起きると訴状や返答書が次々に書き写され、寺子屋の教科書となり、子供の頃から訴訟対策を学ぶ者もいたほどだ。

 境界争いは領地に直結するため、武士も無縁ではなかった。伊予国と土佐国の国境争いは、幕府の評定所に持ち込まれたが、土佐側が出廷すべき庄屋の代わりに弁の立つ武士を百姓と偽装して派遣。もはや、武士同士の全面戦争の様相だ。

 とはいえ、山争い裁判は、単なる奪い合いではない。山をどのように利用してきたか正当性を問う場であった。先人が必死に守ってきた山野とどう共生していくかを考えさせられる一冊だ。

週刊朝日  2017年9月15日号