〈過労自殺と聞くと「死ぬくらいなら辞めればいいのに」と、思う人は多いでしょうが〉〈その程度の判断力すら失ってしまうのがブラックの恐ろしいところなのです〉。『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(わけ)』はイラストレーターの汐街コナと精神科医のゆうきゆうの共著。会社員時代に自身も自殺しかけたという汐街がSNSで流したエッセイマンガが評判となり、ゆうきのアドバイスを加えて本になった。

 かつて月90~100時間の残業をこなし終電に飛び乗って帰っていた汐街は、地下鉄のホームでふと考えた。〈今一歩踏み出せば明日は会社に行かなくていい〉〈それは素晴らしいアイデアに思えました〉。そこまで働いたのは〈まだ大丈夫だと思ってた〉から。うっかり自殺しかけて、はじめて死の危険に気づいたのだ、と。

 厚労省のデータによると2015年に過労死・過労自殺した人は482人。がんばるのはいいが、〈月平均80時間以上残業をしてまでがんばることはやめてください〉とゆうきはいう。時間のほかに「がんばり続けて大丈夫か」の基準は、(1)がんばっていることが自分自身で決めたことかどうか、(2)がんばったことの成果が分かりやすいか、の二つ。超多忙でも生き生きしている人は(1)(2)の条件が満たされている人だけなのだ。

 思い詰めていた汐街を救った周囲の人の言葉が印象的だ。

 深夜帰宅が続く娘を心配する母に〈先輩や同僚はもっと残業してる〉と反論する汐街。母はいった。〈じゃあその人たちに任せて帰ればええやないの〉〈できる人がやった方が効率的やないの〉。ブラボーお母さん。その通り!

 新人時代、仕事が多すぎてテンパる汐街に先輩がいった。〈大丈夫ですよ〉〈俺がやらねば誰「か」やるですよ〉。なるほどな。「誰がやる」じゃなくってね。

 ブラック企業から逃げるマジックワードは〈辞める会社がどうなっても知ったこっちゃねえよ〉。体験者が語る〈過労状態の職場から抜け出して前より悪くなった人はいません〉の一言が心強い。

週刊朝日  2017年6月16日号