『経済は地理から学べ!』を著した宮路秀作は予備校で絶大な人気を博している地理講師。〈地理とは「地球上の理」である〉という指針に則って現代世界の疑問を解き明かしていく授業は、現役の高校教師も参考にしているらしい。

 そんな宮路が、この本では、一般読者を対象に経済と地理の濃密な関係を解読していく。まずは序章で、経済をつかむために必要な「地理の視点(自然、スケール、資源、距離)」を紹介し、それから「立地」「資源」「貿易」「人口」「文化」という切り口ごとに章を立て、今注目すべき事例をあげて展開する。

 その際には、現状の奇妙な点を読者に問うて考えさせ、その上で、なぜそうならざるを得ないのか理由を明らかにしてみせる。

 たとえば、なぜ鉄鉱石の産出大国である中国が鉄鉱石を輸入しているのか、なぜ鉄鉱石の価格下落が起きたのかを問い、その変化の背後にある「鉄鉱石を媒介にした資源戦争」について語る。オーストラリアとブラジルも関わる複雑な内容ながら、地図や図表やグラフも多用されているので、読者は無理なくポイントを理解できるだろう。

 序章も含めて44もの事例が出てくるが、そこで解明されているのは、すべて現在の世界経済に関与する「理」ばかりだ。経済の根本は土地と資源の奪い合いだから、この「理」を理解すれば、不透明な世界情勢の内実が少しは見えてくる。宮路が〈地理とは「現代世界そのものを学ぶ科目」なのです〉と説き、歴史だけでなく、地理にももっと興味をもって欲しいと願うのも当然だと腑に落ちる。

 地理は間違いなく面白い。

週刊朝日 2017年4月28日号