長野県K町を舞台にしたオムニバス短編集。大雪で「陸の孤島」と化した町で起きるドラマの数々。なかでも「墓掘り」が秀逸だ。

 生き別れていた実母の遺体を東京まで引き取りにいった帰り、幹線道路で立ち往生した喪主の女性と遺体搬送会社の運転手。車内の暖房で腐臭が漂い始めたため、やむなく棺を下ろし、一時的に雪の中に埋めようとしていると、後ろの車に乗っていた女性から、縁起でもないと非難を浴びる。ささいなもめ事を挟みながら、寡黙な運転手との会話を通じて親子の事情が明かされていく……。他に、別荘地に逃げ込んだ連続ひったくり犯と一人暮らしの老女の「転落」。緊急救助に派遣された自衛隊員と失踪していた姉との再会を描いた「わだかまり」など、自然の猛威と偶然がもたらした、心にじわりとくる全6篇。

週刊朝日 2017年2月24日号