90年代以降、社会に多大な影響力を放つ3名の言論人による鼎談集である。宮台氏と小林氏は、かつて援助交際や歴史教科書をめぐる問題で対立関係にあった。しかし、本書で着目すべきは昨今の社会問題をめぐる両者の立場の重なり合いだ。現在、国内でヘイトスピーチが噴出するのは人々の感情が劣化し、知性を尊重できない「劣化した感情の発露」状況ゆえという宮台氏の見解に、小林氏は強く同意する。そのような状況認識は、ジャーナリズムなどに見られる「当事者主義」、すなわち沖縄(基地)・福島(原発)など現地当事者の声に寄り添うべきという立場への問題提起へとつながる。東氏は、例えば福島の帰宅困難(立ち入り禁止)地域での高速道路建設に疑問を抱いても、口に出せば「県民に政治性を押しつけるな」と逆に反発をくらうことへの戸惑いを述べる。安易な当事者主義は議論を塞ぎ、分断を加速させるという点で、立場の異なる三者は最終的に合意する。「保守vs.リベラル」「当事者vs.非当事者」という単純化された図式に穴を穿ち、新たな議論の地平を開く一冊だ。

週刊朝日 2015年12月11日号