アウトロー雑誌の元編集長による暴力論である。ささいなケンカから暴走族抗争、殺人事件まで、身近にある様々な「暴力」のスタイルを紹介し、その背景にフォーカスを当てる。
「暴力」と聞くと物理的に殴る、蹴る、刺すといったイメージが最初に来る。しかし、近年特に際立つのは、ネットで起こるタイプの暴力だ。PC画面越しに見知らぬ者同士が口論する「喧嘩凸」と呼ばれる行為から、「イスラム国」(IS)の処刑動画に至るまで、それらは視聴者に安全な位置での鑑賞を許容し、インパクトや面白さばかりが先行する。あるいは、SNSで飛び交う「ネトウヨ」の暴言も然りだ。リベラル的発言に脊髄反射のように噛みつく彼らだが、単なる罵倒を越え、相手の出自や国籍にまで踏み込めばそれらはもはや「ヘイトスピーチ」(差別煽動表現)だと著者は喝破する。読み進むとともに、ハードルを下げ日常に侵食する「暴力」の新たな風貌がくっきりと浮かび上がる。現実とネットとを問わず倫理基準が攪乱する現在の状況において必携の一冊だ。

週刊朝日 2015年11月6日号