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読み聞かせる戦争 新装版
2015/08/06 11:30
戦後70年の8月は図らずも(あるいは謀ったのか!?)、国中で「戦争法案反対」のプラカードがゆれる夏になった。誰も頼んでいないのに、憲法を無視して戦争にわざわざ近づいていく政府与党の愚。
日本ペンクラブ編、元NHKアナウンサーの加賀美幸子さんの選による『読み聞かせる戦争』は、もともとは2002年、米国同時多発テロの翌年に、ある危機感をもって出版された本だった。それが今年「新装版」として復刊された理由はいうまでもないだろう。収録された27編の文章は、大岡昇平『レイテ戦記』、火野葦平『麦と兵隊』のような有名な戦争文学の一部から、無名の書き手の詩や手記まで多種多様。
〈やっとたどりついたヒロシマは/死人を焼く匂いにみちていた/それはサンマを焼くにおい〉(林幸子「ヒロシマの空」)。〈何か宗教の本をお送り願えれば幸甚です。何派のものでもいいのです。(略)たとえ一時的でもいい、心の平衡が求められればいいのです〉(瀬田万之助『きけわだつみのこえ』より)。
こうした悲しみを誘う声だけではなく、人の命をないがしろにした軍や国への怒りをこめた文章が多数収められているのも、この本の特徴だ。
〈火は消さねばならぬものとする法律「防空法」が、人びとの避難をはばむことになったのでした〉と書き、国がはじめた戦争の惨禍と犠牲は一般市民にいく理不尽を告発するのは早乙女勝元『母と子でみる東京大空襲』。戦争末期に回天の搭乗員として戦死した友を悼み、後に〈終戦はもう前からわかっていた〉という当時の参謀の発言を知って〈もしもこれが事実であれば、帝国海軍は若者達を、むざむざと死地へ追いやったことになる〉と書くのは武田五郎『回天特攻学徒隊員の記録』。
大きな文字で、すべてふりがなつき。加賀美さんの朗読を収めたCDつきのお得な本。「国民の命を守る」と称する政府の言い分には必ず裏切られる! そんな歴史も証明する、戦争のエッセンスを集めた一冊だ。
※週刊朝日 2015年8月14日号
読み聞かせる戦争 新装版
日本ペンクラブ編


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