第1回日本翻訳大賞の受賞作『カステラ』の著者による初めての恋愛小説。冷蔵庫に「人格」を認め、人がタヌキになってしまうなど、「韓国文壇の異端児」としての存在感を強く印象付けた『カステラ』とは打って変わって、本書では正統な愛の物語が展開される。
 80年代半ばの韓国を舞台に、恋に落ちた男女の初デート、誤解、別れ、再会からのハッピーエンディングまで、きらきらと輝く青春ラブストーリーが描かれる。しかし、普通の恋愛小説とは大きく異なる点がある。ヒロインが「ブス」なのだ。すれ違った人に笑い転げられるほどの醜さ。デート後の彼氏に「恥ずかしくなかったですか?」と気を使うほどの醜さ。最も輝いている瞬間のはずが、「彼女」の場合は闇だけがどんどん深まっていく。「僕」はそんな彼女をありのまま受け入れる。「人間は失敗作か成功作かという以前に、ただ『作品』としてだけでも価値があるのではないか」と。

週刊朝日 2015年7月10日号