日本ではなくニッポン。こう書くと少し軽やかな感じがするが、そうした印象は1960年代末から現在までの、わが国におけるポピュラー音楽の歴史を語った本書の内容とよく調和している。幅広い教養を持ち、近年は早稲田大学でも教鞭をとる著者が、自身の批評活動の原点である音楽について考察する。
 本書では、70年代のはっぴいえんど、80年代のYMO、90年代の渋谷系と小室系、ゼロ年代以降の中田ヤスタカという“時代の顔”と呼べるミュージシャンたちを取り上げ、彼らを洋楽を盛んに聴いて育った「リスナー型ミュージシャン」と位置付ける。その系譜に、二種類の外部の存在(「洋楽」と「音楽以外の文化的/社会的事象」)との緊張に満ちた関係性をからめ、それぞれの時代における音楽の本質がどこにあったかを解き明かす。
「『歴史』とは、今とこれからを考えるためにこそある」と著者は語る。歴史を糧として、今後はどのような物語が紡がれるか。本書はポピュラー音楽の系譜を知る資料としてはもちろん、「これからの音楽」を考える上でも確かな足がかりとなる一冊だ。

週刊朝日 2015年4月3日号