「優雅な生活が最高の復讐である」は、米国の作家トムキンズの有名なノンフィクションの題名である。最初の部分を「優雅な性活」とすれば、本作に似つかわしい題名ともなるだろう。2歳下の幼なじみ百合に、初恋の人・諒一を奪われたベテラン編集者・真由子が、二人の息子「直巳」の名付け親となり、20年以上にわたって彼女なりの復讐を続けていく様子を描く。
 本作は谷崎潤一郎の『痴人の愛』への山田詠美流のオマージュであり、「直巳」とは、同書に登場する魔性の女「ナオミ」の転生した姿と言える。しかしながら、同書の譲治がナオミの調教に失敗したのに対し、真由子は時間をかけて“愛”の神髄を直巳に教え込み、自分の思い通りの男に育て上げていく。そこに人気作家となった諒一や百合たちが絡み、一筋縄ではいかない絢爛豪華な愛の世界が繰り広げられる。
 童話のような柔らかい文体の中に、「本物の純粋さは馬鹿の持ち物」といった、鋭い言葉たちが光を放つ。大人のための洗練されたおとぎ話と言えよう。

週刊朝日 2015年2月20日号