東日本大震災では、家族の絆に注目が集まった一方、独身者たちの被災状況は、詳しく報道されなかった。本書は『負け犬の遠吠え』などで独身者の生態を伝えてきた著者が、北は岩手県から南は沖縄県まで訪れ、非常時に彼らがどう動き、何を考えたのかをインタビューした記録だ。
 独身者たちの行動は様々だった。被災直後、家族を持つ者に代わって昼夜なく働いたり、被災した実家の両親を守ったり。故郷を離れて沖縄に移住した人がいる一方、被災地にボランティアで行き、そのまま住みついて働き始めた人がいる。また、被災地を離れるかどうかをめぐって恋人と別れた人がいる傍ら、伴侶を見つけた人がいる。
 著者は丹念に話を聞き、どの選択も温かく肯定する。家族のいない身軽さから、非常時に行動力を発揮し、独身者ならではの「つながり」や「居場所」を築いた人が、数多く紹介される。非常時に着目することで、平常時には見えにくかった独身者と社会の様々な結びつきが浮き彫りになっている、貴重な実記だ。

週刊朝日 2014年6月20日号