ヒマラヤなどを舞台に壮大な物語を紡いできた著者による冒険小説。400年前に太平洋に沈んだスペイン船の引き揚げをめぐり、日本の水中考古学者と一攫千金を狙うアメリカの企業が競い合う。
 主人公は、語学に堪能な若手研究者で、20代近くさかのぼる先祖に、太平洋を横断する船の筆頭航海士を持つ。江戸時代、暗礁に乗り上げた船から乗組員を待避させたのち、船と運命を共にした英雄だった。主人公は半ば伝説だった先祖と血がつながっていることに心を躍らせる。
 海中遺物の発掘には莫大な金がかかるが、船体に穴を開けて金目の遺物のみを回収し、世界中に売却しようとする企業を、何としても阻止しなければならない。相手はスペイン政府の高官に賄賂をばらまき、有利な協定を結ぼうとする。ユネスコが主導する水中文化遺産保護条約は、まだ多くの国が批准していない。さらには海底火山が噴火して公海に新たな島が現れた場合の利権が絡む。困難に立ち向かい、夢を追い続ける清々しさを著者は見事に描き切っている。

週刊朝日 2013年11月22日号