かつてニシン漁で栄えた集落の人のにおいと北国の遅い春 写真家・佐藤圭司 (1/3) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

AERA dot.

かつてニシン漁で栄えた集落の人のにおいと北国の遅い春 写真家・佐藤圭司

撮影:佐藤圭司

撮影:佐藤圭司

 写真家・佐藤圭司さんの作品展「張碓から忍路へ-春-」が6月7日から東京・新宿御苑前のRED Photo Galleryで開催される。佐藤さんに聞いた。

【佐藤圭司さんの作品はこちら】

*  *  *
 最初、作品を目にしたとき、(ずいぶん人里から離れたところだなあ)と、思ったのだが、意外にも、撮影地は北海道小樽市内の東西に広がる海沿いのエリアという。

 あの小樽の街のすぐ近くに、こんな場所があるとは、まったく知らなかった。

 小樽の東にある「張碓(はりうす)」と、西の「忍路(おしょろ)」という地名は、もともとアイヌ語で、それぞれ「食料・群生する」「湾」を意味するらしい。

■秘境、張碓駅

 昔はニシン漁で栄えた場所で、昭和の時代までニシンの番屋が並び、漁の時期になると目の前の海に網が仕掛けられた。その名残なのだろう。古ぼけた小屋が並ぶ、なんとも寂しげな風景が続いている。

 佐藤さんに撮影を始めたきっかけを聞くと、「かつて張碓にはJRの駅があったんです。時刻表に載っているんだけれど、電車が一本も止まらない駅」と、不思議なことを言う。

「えっ、それはどういうことですか?」と、たずねると、「海水浴客がそこで下りて、乗って帰る。そういう駅だったらしいです。だから周辺にまったく道がない」。
撮影:佐藤圭司

撮影:佐藤圭司

 ずいぶん風変わりな駅だと思ったら、いわゆる「秘境駅」として、マニアの間では有名だったらしい。

 昔は夏期のみの臨時駅だったが、乗降客がいなくなると通過駅となり、15年前、廃駅になった。

 張碓駅があったという場所は、「張碓カムイコタンの断崖」と呼ばれる何キロも続く巨大な黒い崖の下にあり、「海には崖から落ちた岩がゴロゴロしているんです。冬に行くと、岩がぶつかるような音と、グォーっと、海鳴りがすごい」。

 駅前にあった砂浜は、いまはもう痕跡さえも見当たらないという。

■脳裏にこびりついた景色

 そんな壮絶な景色に出合ったのは十数年間。たまたま訪れた冬の北海道でのことだった。

「札幌から、ちょっと小樽でも行ってみようかと思って、電車に乗ったんです」

 電車は市街地を抜け、雪に覆われた石狩平野を走っていく。

おすすめの記事おすすめの記事
関連記事関連記事
あわせて読みたい あわせて読みたい