写真の中の母に会いに。写真家・笠木絵津子の4次元時空間への旅 (1/4) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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写真の中の母に会いに。写真家・笠木絵津子の4次元時空間への旅

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「1953年正月、兵庫県尼崎市元浜町2の89の引揚げ者の寮にて、私を抱く母と、母を抱く私」(制作:笠木絵津子 以下同)

「1953年正月、兵庫県尼崎市元浜町2の89の引揚げ者の寮にて、私を抱く母と、母を抱く私」(制作:笠木絵津子 以下同)

 写真家・笠木絵津子さんの作品展「『私の知らない母』大型プリント展-林忠彦賞受賞を記念して-」が10月8日から東京・目黒のコミュニケーションギャラリー ふげん社で開催される。笠木さんに聞いた。

【作品の続きはこちら】

 写真展案内にあった笠木さんの経歴を見て、思わず目が点になった。(えっ、京都大学基礎物理学研究所? アインシュタインの世界じゃん)。世の中にはさまざまな経歴の写真家がいるが、これほど異色な人はめずらしい。

 どんな気難しい人かと思いきや、待ち合わせの喫茶店に現れたのは、関西弁まじりで話すとても気のいいおばちゃんだった。

在りし日の母の姿と、笠木さん自身の現在と過去の写真を合成

 この写真展は笠木さんの写真集『私の知らない母』が今年、「林忠彦賞(※1)」を受賞したことを記念するもので(※2)、選考委員の一人、河野和典は作品をこう評価、解説する。

<写真は「時間と空間の芸術」と言われますが、笠木作品はまさにそれを象徴するような作品で、1点の写真の中に母と笠木さん本人の様々な時間と空間を散りばめて構成するというフォト・コラージュです。基本的には、かつて母が過ごした朝鮮半島、台湾、満州、中国、そして日本の兵庫県などの場所を取材して撮影し、そこへ母のアルバムから在りし日の母と家族、そして笠木さん自身の現在と過去の姿を重ね合わせて構成しています>(「第29回 林忠彦賞 選考委員会総評」)

 なるほど、そのとおりである。しかし最初、この作品を見たときの感想は、(なんじゃこりゃ!?)。戦前の対外宣伝誌「NIPPON」「FRONT」を彷彿させる大胆なフォト・コラージュの手法。奇想天外、摩訶不思議なパワーが炸裂、いや、爆発していた。このシリーズは2007年、岡本太郎現代芸術賞に入選しているのだが、納得である。

過去のいろんな時間、いろいろな場所に母がいた証明

 ちなみに、この作品には設計図があり(さすがは理系女子、やることがシブい)、それ自体も作品化され、「4次元時空間に浮かぶ古い家族写真たち」と、名前までつけられている。説明をお願いすると、笠木さんはおごそかにこう言った。

「ミンコフスキー空間って、ご存知ですか?」

「いえ、知りません」(神妙な面持ちで)

「アインシュタインの相対論に出てくるんですが、ヘルマン・ミンコフスキーという人が考えた4次元の空間で、その中で事象が起こる。それを表している絵なんです」

 ミンコフスキー空間は砂時計を横倒しにしたような形で、それを貫くように時間軸が描かれている。くびれた部分が現在で、手前が過去、奥が未来を表しているという。過去の部分には笠木さんの昔の家族写真を貼りつけるように合成してある。くびれた部分には「過去を見つめる私、みたいに」、笠木さんの姿が見える。

「過去のいろんな時間、いろいろな場所に母がいたことの証明を写真がしている、という感じですね。そういう絵が頭にパッと浮かんだんです」

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