水辺の囁きに耳を澄ます(長野県・蓮池)■オリンパスOM-D E-M1 MarkII・M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO・ISO200・絞り開放・AE・-0.3補正(撮影:萩原史郎 以下同)
水辺の囁きに耳を澄ます(長野県・蓮池)■オリンパスOM-D E-M1 MarkII・M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO・ISO200・絞り開放・AE・-0.3補正(撮影:萩原史郎 以下同)

風景写真家・萩原史郎さんの作品展「志賀高原―Whisper of the Scenery―」が9月11日から東京・新宿のオリンパスギャラリー東京で開催される(大阪は10月2日~14日)。萩原さんに聞いた。

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 写真展案内のはがきを手にすると、ゆらゆらとさざ波立った水面を背景に、パステル調の何やらひょろ長いものがいくつも写り込んでいる。不思議な写真だ。

――いったい、これは何ですか? 萩原さんにインタビューすると、開口一番、聞いてみた。

「志賀高原、蓮池で写した写真です。何の葉かわかりませんが、それを逆光で撮っているんです。印象的な瞬間でした。これだと『この人は写真展で何を見せようとしているんだろう?』って、思うじゃないですか。これが定番の渋峠の写真だったら、さもありなん。もう、展覧会の内容が透けて見えちゃいますから」

 どうやら、私の疑問は萩原さんの思惑どおりだったようだ。

朝露をまとう姿に心を奪われる(長野県・カヤの平)■オリンパスOM-D E-M1X・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO・ISO200・絞りf8・AE
朝露をまとう姿に心を奪われる(長野県・カヤの平)■オリンパスOM-D E-M1X・M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO・ISO200・絞りf8・AE

混雑するところは好きじゃない。昔はときどき足を向ける程度でした

 全国的にも有名な撮影スポットが点在する志賀高原。四季折々の美しい自然をカメラに収めようと、大勢の写真愛好家が訪れる。

 しかし、萩原さんは、「あまり混雑するところは好きじゃない。昔はときどき足を向ける程度でした」。

 そんな萩原さんが「自分の庭のように感じる」ほど志賀高原に通うようになったのは2年前。撮影名所の木戸池近くにある石の湯ロッジのオーナーから写真教室の講師を依頼されたことがきっかけだった。教室は2泊3日で毎月一回。定員は8人と、少人数制で行われる。

「本当に暗いうちから行動して、日没まで撮るという、スパルタ的にやっているので、撮影のチャンスには相当恵まれるんです。いちばん日照時間が長い6月だと朝2時半くらいに宿を出て、夕方は7時くらいまで撮る。でも、みなさん、ほんとうによろこんでくれます。冬場は厳重にダウンを着込んでもらい、スノーシューを履いて、ハイキングも楽しんでもらう」

「ああ、こういう視点もあるんだ」ということに気づいてもらいたい

 ちなみに、志賀高原北部のカヤの平は、光芒がよく現れる場所として知られている。ところが以前、萩原さんは何度通っても光芒を撮ることができなかったという。

「でも、なぜだかよくわかりませんけど、写真教室をやるようになってからは、カヤの平に行けば光芒が出るんです。ほんとうにね、天が微笑んでくれているのか、わかりませんけど。渋峠に行けば空が真っ赤に染まったり、雲海が出たり、冬は霧氷がびしっとついてくれたり。晴れがあれば、雨も降って、霧が出たり。そんなわけで、『外れない写真教室』と呼ばれてます(笑)」

 そこで「ちょこちょこ撮った作品」は、参加者に「実はこういうものを撮っているんです」と、必ず見せるようにしている。

 参加者は「志賀高原のイメージ」を思い描いて撮影教室にやって来る。当然のことながら、萩原さんはそんな期待を裏切らないように、渋峠や木戸池、蓮池、カヤの平といった有名なポイントを訪れ、撮影を楽しんでもらう。

「でも、そんな定番の場所でも、自分が見つけた被写体はみなさんとは違う。それを見せることで、『ああ、こういう視点もあるんだ』ということに気づいてもらう。志賀高原らしい風景を撮りつつ、新しい発見もしてもらえるような教室にしているんです。今回はそこで撮りためた作品を展示してみようかな、という発想だったんです」

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