取材中、そのマイペースな言動は場を和ませ、周囲を笑わせた。その“大物感”は「やってまった(やってしまった)」が口癖の鈴愛にも負けない。

「早口でポンポンしゃべるし、表情もコロコロ変わる。左耳が聴こえなくなっても強く生きていきそうなたくましさも感じられて、鈴愛にピッタリだと思ったんです」

 北川はオーディションをそう振り返り、脚本は“あてがき”(役者を想定してセリフを書くこと)したと明かしていた。撮影の苦労を口にしながらも、あっけらかんと「ロスに襲われたのはクランクアップの日だけで、意外とすんなりとさよならって感じ(笑)」と言い、このドラマを通して掴めたものはという質問にはイタズラっぽく笑いながら「監督の心」と答えた。

「監督が求めている鈴愛と私がやりたい鈴愛が違うときもやっぱりあって、話し合いながらやってましたが、最後の方は『こうしてほしい』と一切言われなくなって、これはもう鈴愛を掴んで、監督の心をガッシリ掴んだんじゃないかって思いました。いま初めて言ったけど(笑)」

 普段は「将来の夢とか目標が無い人間」だという。学生時代に思い描いていた将来の夢は、スーパーのレジ打ちや保育士さん。小さい子どもが好きで、保育園へ職場体験にも行った。スカウトで芸能界に入ってからも、目標はあえて置かないようにしている。

(撮影/写真部・大野洋介、スタイリスト/岡本純子・Afelia、ヘアメイク/石田絵里子・air notes)
(撮影/写真部・大野洋介、スタイリスト/岡本純子・Afelia、ヘアメイク/石田絵里子・air notes)

「目標を達成しちゃうと満足して終わっちゃうから、お仕事辞めちゃうかも。目標を聞かれて、『こうです』ってはっきり言える人はカッコいいなと思うし、私は目標を立てる勇気がないんだよなとも思って。でも『半分、青い。』で、女優というお仕事がすごく好きになったし、誰かと目を合わせてお芝居をするのがすごく楽しいことだとも思えた。逆に女優さんというお仕事がとんでもなく辛いということも感じたけど、このお仕事の魅力を再確認して、ここで出会った方々とまた違う役で向き合ってお芝居することができたらいいなと思うようになりました」

 気分転換は朝ドラの撮影に入ってから始めたドラム。時間を見つけて音楽スタジオでレッスンを受けた。

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「嫌だったシーン」もぽろり…