また東京では「銭湯」と呼びますが、大阪では「風呂屋」や「お風呂」、「おふろやさん」と呼ぶのが一般的なんだそうです。

■地域の違いと個性を楽しむ

「東西の銭湯の差異は、かつては顕著でしたが今はそれほどではありません。全国の銭湯の情報収集が容易になり、各浴場がそれぞれのスタイルを採りいれたからだと推測します」

 藤本さんは、地域差が薄まってきた理由をそう分析します。

 また、建て替えや銭湯の数自体が減少している事もあり、違いが減りつつあるようです。例えば脱衣籠の形。東京は丸く、関西は四角に編まれていたそうですが、そもそも脱衣籠を見かけなくなりました。

今では珍しくなった関東式の丸く編まれた脱衣籠(撮影/淺見良太)
今では珍しくなった関東式の丸く編まれた脱衣籠(撮影/淺見良太)

 地域の違いが薄まる一方で“個性”に力を入れる銭湯が増えていると藤本さんは言います。

「いろいろな種類の浴槽を設けたり、隣にゲストハウスを置き、"銭湯利用ができるゲストハウス"というPRをする銭湯もあります。自宅浴室やスーパー銭湯、スポーツ施設など多岐多様の温浴施設が普及してきた今の環境の中で、各銭湯が個性を発揮するための努力をしているんです」

 人々の生活スタイルに合わせ生まれた地域による違いのほか、いまでは「個性」という新たな魅力を模索する銭湯。ただ、時代の流れに乗りつつも、周りよりゆっくりと進んでいるようにも感じます。

 背景画を見ながら広い湯船にゆっくり浸かっていると聞こえてくる常連客の話し声や床と桶が奏でる「カラン」という音。脱衣所で番台さんやお客さんとの会話を楽しむ人々。どこか落ち着くのは、変化の激しい現代において銭湯が"変わらぬ場"であり、それが東京と大阪の違いを今でも垣間見ることができる理由でもあるのかもしれません。

(文/淺見良太)