「わ」と書かれた“板”は「わいた(沸いた)」、つまり開店を意味する。閉店する際は「ぬ」が書かれた面にひっくり返され「ぬいた(抜いた)」に(撮影/淺見良太)
「わ」と書かれた“板”は「わいた(沸いた)」、つまり開店を意味する。閉店する際は「ぬ」が書かれた面にひっくり返され「ぬいた(抜いた)」に(撮影/淺見良太)

 これからますます寒くなるこの時期、近所でも旅先でも大きなお風呂に浸かりたくなる人も多いのでは。近年では落語や音楽ライブ、プロジェクションマッピングなどのイベントが開かれたり、銭湯好きの女性たちによる情報サイトがあったりするほど若い世代でも銭湯好きが増えている。そんな再評価されている銭湯だが、東京と大阪で違いがあるというのはご存じだろうか。文化が違えば風呂場も変わる。銭湯がちょっと楽しくなる東西の違いを紹介する。

【写真はこちら】ケロリン桶も湯船の位置も違う!銭湯の東西差

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東京では浴室の正面奥に湯船があることが多い(東京都千代田区の「稲荷湯」、撮影/淺見良太)
東京では浴室の正面奥に湯船があることが多い(東京都千代田区の「稲荷湯」、撮影/淺見良太)

■湯船の位置は関東が奥、関西は中央

 浴室に入って初めに違いを感じるのは湯船の位置でしょう。東京では壁際、大阪では浴室の中央にある事が多いんです。なぜこのような違いが生まれたのでしょうか。

 大阪の銭湯を取りまとめる大阪府公衆浴場組合の事務局長、藤本隆夫さん(69)によると入浴の仕方が関係しているようです。

「体の汗や汚れを落としてから湯船に入るのは同じですが、大阪では湯船の湯をくんで"かかり湯"で汗・汚れを落として入浴するんです。その後、湯船の外の座り段で、湯船の湯を汲みだして体を洗います。カラン・シャワーの数が少なかった時代の名残なんですね」

体を洗うための座り段が周りを囲む関西の湯船(大阪市の「源ヶ橋温泉」、提供/大阪府公衆浴場組合)
体を洗うための座り段が周りを囲む関西の湯船(大阪市の「源ヶ橋温泉」、提供/大阪府公衆浴場組合)

 この位置の違いができた理由には諸説あり、肉体労働者が多かった関東では汚れを洗い流してから湯船につかったため手前に洗い場、奥に湯船を置き、商人が多かった関西では体を温めてから体を洗うので湯船を真ん中に置いたという説もあります。

 また、大阪の湯船は一般的に深くて湯量が多いという特徴があるのですが、これも湯船の湯を大量に使っていた入浴スタイルの名残。さらに、この違いから銭湯ではおなじみの"アレ"にも違いが……。

■銭湯の定番アイテム、ケロリン桶にも違いが

左が関東版(A型)、右が関西版(B型)。過去、これ以外にも湯河原の湯かけ祭り専用の超小型(S型)が存在していたが現在は生産しておらず入手不可。ケロリンRは内外薬品株式会社の登録商標(提供/内外薬品株式会社)
左が関東版(A型)、右が関西版(B型)。過去、これ以外にも湯河原の湯かけ祭り専用の超小型(S型)が存在していたが現在は生産しておらず入手不可。ケロリンRは内外薬品株式会社の登録商標(提供/内外薬品株式会社)

 目立つ黄色が特徴的なケロリン桶も関東と関西では大きさが違います。関東版は直径22.5センチ。一方の関西版は直径21センチで小ぶり。関西版がひとまわり小さい理由を教えてくれたのはケロリン桶を販売する内外薬品の代表取締役社長、笹山敬輔さん。

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桶の大きさが違う意外な理由