ラスベガスの地下住人が使うお風呂って、いったいどんなもの?(イラスト/majocco)
ラスベガスの地下住人が使うお風呂って、いったいどんなもの?(イラスト/majocco)

 世界中のスラム街や犯罪多発地帯を渡り歩くジャーナリスト・丸山ゴンザレス。取材やインタビューの基本は英語である。それもフィリピンで習得したアジアン・イングリッシュ。ブロークンであるがゆえに、恐ろしくも奇妙で日常生活ではまず使うこともないようなやり取りも生まれてしまう。そんな危険地帯で現地の人々と交わした“ありえない英会話”を紹介する本連載、今回のキーワードは、ラスベガスの地下住人を取材中に質問した「Is that your bath?(お風呂ですって?)」である。地下に暮らす人のお風呂とは、いったいどんなものなのか、見ていきたい。

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 ラスベガスの地下に人が暮らしているというアメリカのニュースを偶然知ったのは、10年以上前のことだった。その記憶を不意に思い出したのがきっかけで、「あのニュースのその後を調べてみよう」と、実際に取材に行ったのは2015年4月のことだった。

 取材を開始するとすぐにラスベガスの地下に張り巡らされたトンネルと、そこに暮らす人がいるという情報は入ってきた。運良くいくつかのトンネルに実際に入って、住人たちとも話すことができ、トンネルが鉄砲水対策のインフラであることもわかった。砂漠の街であるラスベガスは、どこかで降った雨が大地に吸収されずに、そのまま流れていき、やがて合流して鉄砲水になることが年に何度かあるそうだ。そのため、水の進路に通されたトンネルというのが、ラスベガスの地下空間の正体だった。

 だが、普段はただの無人トンネルである。住む気になれば、比較的容易に住み始めることができる。それどころか通気性もよく、砂漠の日差しを遮ってくれるので、正直なところ、住むには十分である。

 では、実際に住んでいるのはどんな人達なのか。

 地下住人のひとり、ビリーさん(仮名)は、元軍人で従軍中に負った心の傷がもとでPTSD(心的外傷後ストレス障害)となり、日常生活に支障をきたし、紆余曲折あって地下空間に流れ着いたそうだ。

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丸山ゴンザレス

丸山ゴンザレス

丸山ゴンザレス/1977年、宮城県出身。考古学者崩れのジャーナリスト。國學院大學大学院修了。出版社勤務を経て独立し、現在は世界各地で危険地帯や裏社会の取材を続ける。國學院大學学術資料センター共同研究員。著書に『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』(光文社新書)など。

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