「高齢者の運転能力を測定すると、運転が下手な人ほど運転に自信があるんです。一方、安全な運転をする高齢者ほど自分の運転に対する評価が低いことが多く、免許を返納しやすい。つまり、運転能力の低下を自覚できない、本当に危ない高齢運転者は免許を返納しない。なので、きちんと運転能力を検査せず、一律に免許返納を促してしまうと、危険な運転者の割合が増えてしまい、逆効果となってしまう可能性があります」

免許返納で要介護リスク

 さらに、単に高齢になったからといって運転をやめると、健康寿命が短くなるリスクもあるという。

「私が以前勤めていた国立長寿医療研究センターで、運転を続けた高齢者と、運転をやめた高齢者を比較した大規模調査の結果があるのですけれど、後者は要介護状態になる危険性が約8倍に上昇することが明らかになっています」

 同センターによると、運転していた高齢者は運転していなかった高齢者に対して、認知症のリスクが約4割減少することもわかっている。

「高齢者の心身機能の維持に車の運転を続けることは重要です。自分の意思で人に会いに出かけたり買い物に行けたりすることが、脳機能を高く維持します。さらに対向車が走ってくるとか歩行者がいるとか、さまざまな情報を同時に処理して判断し、危険を回避することはかなりヘビーな脳トレになります。なので、安全に運転できるのに免許を返納するのは非常にもったいないというか、健康リスクが上昇してしまうことをもっと知っていただきたいと思います」

 伊藤教授によると、ここ10年ほどのサポカーの進化によって、高齢運転者が起こしやすい事故原因の多くは防げるという。

 実際、高齢運転者が増え続けているにもかかわらず、16年以降、高齢運転者の交通事故件数は減少傾向だ。特に65~69歳(原付き以上運転者)は16年が3万8665件、22年は1万8659件と、ほぼ半減した。20年からは運転免許証の返納数が大きく減少しているのに、だ。

ダイハツ工業の功績

 そうした実情を踏まえて、国内主要乗用車メーカー8社にサポカーについて尋ねると、対応に大きな差があった。

「検討の結果、回答を差し控えさせていただきます」「ホームページに掲載していること以上はお話できません」など、消極的なメーカーが目立った一方、ダイハツ工業とマツダは「運転できる間はできるだけ長く運転してほしい」と、高齢者に向けた車づくりについて積極的に語ってくれた。

 ダイハツ工業の主力製品である軽自動車は公共交通機関が少ない地方で暮らす高齢者の日常の足となっている。そのため、早い時期から予防安全・運転支援機能「スマートアシスト(スマアシ)」の搭載に取り組んできた。

「12年12月に軽自動車としては初めて衝突回避支援ブレーキ機能と誤発進抑制制御機能をつけました」と、ダイハツ工業広報室の井上和樹さんは説明する。

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