安倍さんが亡くなった後も、安倍さんが残したものはしっかりと、岸田さんによって推し進められているのだろう。岸田さんのいう「異次元の少子化対策」とは、まさか高齢者が10体のアバターを持って経済活動するというものではないと願いたいが、真顔でソサエティー5.0とかを提唱し、アバター10体持ちましょう、なんてことを国民に推奨するような国家(しかも、7年後にはそういう未来を目標にしているなんてこと、ほとんどの人は知らないですよね)は、黄泉の国感が強すぎて不安しかない。

 もちろん、テクノロジーが人類の生活を向上させる未来は多くの人が望むものだろう。でも、そこに必要なのは、「ソサエティー5.0」とか、「ムーンショット」とかいうハッタリ感のある空っぽの言葉ではなく、人の尊厳を絶対に損なわない丁寧な制度設計のはずだ。嘘のない、不正義を自ら正すようなまともな政治であるべきだ。それこそが、残念ながら日本におけるムーンショット的な夢なのかもしれないのだけれど……。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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