写真はイメージです(Getty Images)
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作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は「ムーンショット目標」について。

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 日本は衰退していくのだな……と実感する。内閣府が旗を振る「ムーンショット目標」を知り、そう思う。

 衰退すること自体は、悪いことばかりじゃないはずだ。イケイケイケイケ! ジャパン・アズ・ナンバーワン!な時代に青春を送った者としては、衰退前提に立たざるを得ない今の空気は、決して居心地が悪いものではない。最近、バブル時代を描いた桐野夏生氏の『真珠とダイヤモンド』を読んだが、あまりの後味の悪さに数日間、悪夢が続いた。でも、そもそもバブルというものは後味の悪いものだったと思い出す。その後味の悪さを、日本社会は30年以上、引きずってきたかもしれない。

 あの時代からすれば、衰退前提の今のほうが、きっと未来を冷静に見つめられるはず……そう思って堅実な経済活動を心がけてきているのだけど、エライ人の考えることは私の想定を超えすぎていた。それが「ムーンショット目標」である。内閣府がリアルタイムで推進している計画なのだが……これがね、もうね、イヤな予感しかないのである。この国の政治家はいまだに一発逆転、一獲千金、ジャパン・アズ・ナンバーワンなもくろみを持っているのかと衝撃を受ける内容なのであった。

 そもそも名前からして、荒唐無稽でしょう。ムーンショットとは、人類を月面着陸させたアポロ計画に由来する言葉で、「前人未到で、実現不可能な、無謀な計画に見えるが、いざ達成すれば人類にとっての大きな一歩になる」計画のこと。発想が1960年代? 昭和に換算すれば昭和30年代の子供のようである。それでも百歩譲って、21世紀のムーンショットが地球規模でのお祭り感のある計画ならば納得できるかもしれないが、日本の内閣府のいう「ムーンショット目標」の一つは……これである↓

「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」(内閣府のページから)

 ……黄泉の世界になるんですか!!!……と不吉な予感しかないじゃないですか!

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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