三井住友海上火災保険人事部部長の丸山剛弘さん(写真/米倉昭仁)
三井住友海上火災保険人事部部長の丸山剛弘さん(写真/米倉昭仁)

 産後の女性の死因の1位は自殺である。その大きな要因は産後うつだ。出産に必要な女性ホルモンは子どもを産むと急激に減少し、ホルモンバランスが大きく崩れ、うつが引き起こされる。産後うつのピークは出産後2週間から1カ月といわれる。

「そこで夫が休業をとって妻をしっかりと支える。なので、男性社員が育児休業をとるのは当たり前で、産後できるだけ早い時期に連続して休業をとることが重要だと伝えてきました」

 実は、育休の取得日数が少ない、いわゆる「とるだけ育休」が特に横行しているのが金融・保険業界である。なので、こうした取り組みはかなり珍しい。さらに社長が産後うつの問題にまで言及して育休取得を進めるのは異例のことである。

それより人を増やしてくれよ

 リモート会議に話を戻そう。

「これまでさまざまな育児支援の仕組みを充実させてきましたから、これ以上、産育休者本人に手当などを増やしてもあまり効果は見込めないかな、という話になりかけたときに、じゃあ、本人ではなく、まわりの人に一時金を支給するのはどうでしょうか、と言ったんです」

 筆者は、思わず言葉が出てしまった。「そんなアイデアがよく出ましたね」と。

「いや、たぶん人事を長くやっている人だったら誰でもそういうことは考えていると思います」

 丸山部長は謙虚にそう指摘し、さらに、続けた。

「なぜ、育休をとりにくいかというと、休む人は職場の人に迷惑をかけてしまうので、申し訳ないとどうしても思ってしまいます。まわりの人は、おめでとう、と祝福するのが普通ですが、心のどこかに、ああ負担が増えるな、とモヤモヤした気持ちも抱えてしまいがちです」

 ちなみに、ヤフコメには「手当を支給するよりも人を増やしてくれよ」という声もあったが、同社は代替要員の配置を以前から行ってきた。

「でも、そう簡単ではないんですよ。すべての産育休のケースで代替要員を配置できるものではありません。部支店の要員計画とも関連がありますし、また、特に業務内容が高度になればなるほど難しい。同等のスキルや経験を持った人材が見つからないとか、見つかっても仕事を教えるのが大変とか。そういう不満はなかなかゼロにはならない。なので、数字のうえでは育休の取得率も取得日数も問題ないように見えても、本当に気兼ねなく育休をとれているか、周囲も心から快く応援できているかといったら、改善の余地が大きいよねと。そこで、本人ではなく、職場を支えるまわりの人にも一時金を支払い、会社全体で育休を応援していこう、という案を出した。そうしたら、『それ、いいね。それでいこう』という話になった」

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