石川幹子さん=2023年3月、中央大学の隣にある文京区立礫川公園
石川幹子さん=2023年3月、中央大学の隣にある文京区立礫川公園

 東京の明治神宮外苑に根をおろした約1000本の樹木を伐採する開発計画に、学者として敢然と異を唱えたのが中央大学研究開発機構教授の石川幹子さんだ。昨年1月に自ら現地を調べ、伐採本数を突き止めて発表したら反対運動に火がつき、12万を超える署名が集まった。

【写真】愛くるしい瞳の10歳のころの石川幹子さん

 外苑の再開発は、多くの反対署名があるにもかかわらず、ほぼ原案通りに進められようとしている。援軍が乏しい中でも「サイエンスに基づいた論理的な闘い」を続ける覚悟は揺るがない。(聞き手・構成/科学ジャーナリスト・高橋真理子)

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――今年1月25日に、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問機関「イコモス(国際記念物遺跡会議)」国内委員会理事として、事業者による神宮外苑再開発の環境影響評価書(アセスメント)が「非科学的だ」と訴える記者会見を開きました。

 資料編もいれると約1000ページになる評価書を詳細に分析して、「非科学的方法論による虚偽の構造」を明らかにしたんです。植物社会学に基づく生態学方法論の適用が必要なのに、方法論を習得していない調査者が担当していた。現況調査に根本的な誤りがありますから、これに基づく評価・予測は砂上の楼閣で、虚偽の構造となっています。1月30日の環境影響評価審議会では「ゴーサインは出せない」との発言があり、審議会の場でイコモスの指摘に答えるよう事業者に求めることが決まったのに、東京都は2月17日に再開発事業を認可しました。きわめて深刻な事態です。

 私は昨年1月に「何かおかしい」と思って、事業者が出している図面を片手に現場を調べ、約1000本が伐採されるとわかった。その後、事業者が1018本と発表しましたから、私の調査はかなり正確だといえますよね。

 再開発自体をやめてほしいと思いますが、そうもいかないのだろうと伐採樹木が2本で済む計画をつくりました。昨年4月26日に東京都に提出し、公表もしました。ところが事業者の三井不動産は話も聞かない。日本を代表する企業が返事すらせず、都合の悪いことには完全に沈黙を決め込んでいる。もう、予想外の展開ですよ。民主主義はどこにいったのか、って思います。

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高橋真理子

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ)/ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネータ―。1956年生まれ。東京大学理学部物理学科卒。40年余勤めた朝日新聞ではほぼ一貫して科学技術や医療の報道に関わった。著書に『重力波発見! 新しい天文学の扉を開く黄金のカギ』(新潮選書)など

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法の秩序はどこにいってしまったのでしょうか?