松本は初めから自分の笑いに揺るぎない自信を持っていた。だからこそ、それがなかなか世間に理解されないことに苛立っていた。でも、笑いという営みは笑わせる相手がいて初めて完結する。見る人を置き去りにするわけにはいかない。松本は大衆に向き合い、地道な笑いの啓蒙活動を続けていった。
その成果は確実にあった。松本の笑いは多くの人に愛され、熱烈なファンを獲得した。芸能界における芸人の地位も上がり、お笑い業界はかつてない盛り上がりを見せている。そのすべてが松本によるものかどうかはわからないが、最大の功労者のうちの1人であることは間違いない。
今年還暦を迎える松本が、引退を現実的な問題として考えているのは不思議なことではない。しかし、当然ながら今日明日にすぐ辞めるというわけにはいかないだろうし、辞めるつもりもないだろう。4月には新番組『まつもtoなかい』(フジテレビ)も始まる。
『M-1グランプリ』『キングオブコント』の審査員、『人志松本のすべらない話』のディーラー、『IPPONグランプリ』のチェアマンなど、今の松本には笑いの権威としての役割を担う仕事が多い。さらに言えば、闇営業騒動のときに自ら事態収拾に動くなど、何かにつけてお笑い界全体のことを考えて行動しているようにも見える。
「急に辞められても困るやろなと思うし、ずっとおられても困るんやなと思いながら、そんな感じで日々、一日一日過ぎていってるけどね。」(『SWITCH』VOL.41 NO.2/スイッチ・パブリッシング)
最近のインタビューでは、自身の進退についてそのように語っていた。今の松本を突き動かしているのは、お笑い界の盟主としての純粋な「使命感」のようなものなのだろう。(お笑い評論家・ラリー遠田)