ブランコ・ミラノビッチさん
ブランコ・ミラノビッチさん

 世界銀行の主任エコノミストも務め、日本などの先進国中間層の成長率の鈍化を見破り、的確に分析したブランコ・ミラノビッチ氏。ここでは冷戦以後の資本主義の形が2つに分かれたことを分析。「リベラル能力資本主義」と「政治的資本主義」が2035年の世界にもたらすものとは? 最新刊『2035年の世界地図』で語った資本主義の未来予想図を、本書から一部を抜粋・再編して大公開します。

【図】ひと目でわかる。先進国の中間層の陥没

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■冷戦後の「資本主義」は2つの道をたどった

――冷戦終結から30年余りが経過したいま、私たちはどこにいるのでしょうか。冷戦は、米国にとっては勝利と写り、ある種の傲慢さの感覚を残して、終わりました。しかし、それ以降のグローバル化の前進は、2008年の世界的な金融危機によってつまずきました。そして私たちは、習近平国家主席が率いる非自由主義的で、技術権威主義的な中国国家の劇的な台頭を目の当たりにしています。この劇的な冷戦後の時代において、「2種類の資本主義がある」とあなたは見ておられます。1つは、「リベラル能力資本主義」。もう1つは「政治的資本主義」であり、前者は米国、後者は中国が主導しています。この資本主義の2つの形態について、説明していただけますか。

 私の本で定義している資本主義の2つの形態には、まず「リベラル能力資本主義」があります。そして、私が使用している意味での「能力主義」という言葉については、少し説明する必要があります。この言葉はジョン・ロールズから借用したものですが、一般に言われているように、誰もが相応のものを手に入れる、という意味での能力主義ではありません。彼が「能力主義」で意味したのは、単にあなたが得るどんな地位や仕事にも、法的な制限や障害がないということです。封建時代の社会では、階級や配役を与えられた場合、それを維持する義務がありました。「そういったことが明らかに存在しない」。それが私の本での能力主義の意味です。

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冷戦後の資本主義のもう一つの形態とは?