米上空の中国偵察気球を撃墜 残骸の回収 (写真/アフロ)
米上空の中国偵察気球を撃墜 残骸の回収 (写真/アフロ)

「衛星は上空を通過する時間が把握されているので、その時間帯に設備や装備を覆うなどして、隠すことができます。衛星は速度が速いので、一つの地点を観察できるのは数分、長くても約10分。その点、気球なら、同じ場所に長くとどまれる」

 二つ目は電波情報を収集しやすいことだという。

「アメリカの核戦力を運用するための電波というのは、基本的に衛星に依存していません。いざというときに撃ち落されてしまう可能性があるからです。例えば、大統領専用機『エアフォースワン』から大陸間弾道ミサイル(ICBM)基地に指令を出すときには波長の長い電波で指令を送る。その電波は地上約50~500キロの電離層で跳ね返される性質を持っています。気球は電離層の下の成層圏を飛ぶので、電波情報がよくとれる。なので、映像を撮影するというよりも、電波を傍受できるメリットが大きい」

 今回、気球が飛行した場所の一つが北西部のモンタナ州である。ここにはICBMを運用するマルムストロム米空軍基地がある。

「そこを偵察して米国の弱点を見つけるだけではなく、核兵器の運用システムをコピーして自分たちがICBMを配備する際のノウハウに生かす、という目的も考えられます」

中国の代償「国民的悪役に」

 ちなみに、気球の飛行は風まかせ、というイメージがあるが、地球大気のシミュレーションによって目的地の事前予測が可能だ。さらに飛行高度を調整することで、方向の異なる風に乗り、目的地に到達することができる。

 成層圏を飛ぶ高高度気球は、遠隔操作で排気(浮力の調整)とバラスト投下(自重の調整)を行い、高度を調整して方向を変えるのが一般的だ。空気の薄い成層圏とはいえ、今回の気球にはプロペラがついているので、さらに細かな飛行方向の調整が可能だろう。

 ただ、不思議なのは、気球にあれほど大きな構造物が吊り下げられているにもかかわらず、長年、見過ごされてきた点だ。

「通常の飛行物体は飛ぶ高度が決まっているので、レーダーはそこを見ています。それよりもずっと高い成層圏を飛行する物体については、レーダーでとらえられたとしても、自分たちの知らない科学調査だと認識されて、見過ごされてきた可能性は十分にあります」

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