米上空の中国偵察気球を撃墜 残骸の回収 (写真/アフロ)
米上空の中国偵察気球を撃墜 残骸の回収 (写真/アフロ)

 今回、米国は気球がアラスカ州・アリューシャン列島を通過したときから追跡を開始した。

「偵察機でもモニターしていたので、公表されている映像よりもはるかに近くから気球を観察したでしょう。なので、気球が『偵察用』であると、早い段階から確信していたと思います」

 米国務省は9日、偵察機で撮影した気球の画像に通信を傍受できるとみられるアンテナが写っていたことを明らかにした。

恐るべきUFOの正体

 さらに高橋室長は、こんな背景も語る。

「最近米国は、UFOというか、『UAP』対策に真剣に取り組んでいます」

 UAP(Unidentified Aerial Phenomena)とは、未確認の空中現象のことである。

 2021年11月、米国防総省はUAPを発見し、特定するための組織、AOIMSG(Airborne Object Identification and Management Synchronization Group)を設立することを発表した。

「国防総省のプレスリリースによると、AOIMSG設立の予備調査で、演習空域や基地の制限区域でUAPが頻発していることが判明した。国家安全保障に関わる問題なので、UAPに対処する必要があると判断したわけです」

 当時、「国防総省がUFO対策の部署を設立した」と、話題になったが、結局、UAPとは何だったのか?

 今年1月、米情報機関を統括する国家情報長官室はUAPに関する報告書を公表した。21年の調査で判明したUAPの目撃情報は144件。それが今回は510件と大幅に増加した。新たに報告された366件のうち、実に半数近い166件が「気球」だった(残りのほとんどは正体不明)。

 この結果を知ったとき、筆者は「なんだ、UFOの正体は気球か」と、拍子抜けしたのだが、今、振り返ると、恐るべきことである。米国の安全保障に関わる最重要の場所に何者かが気球で深く侵入していたのだ。

 そして、今月8日、国防総省は中国が数年にわたり、気球によって大規模な偵察活動を行ってきたことを明らかにした。

偵察衛星時代に「気球」のメリット

 しかし、宇宙空間を偵察衛星が飛ぶ時代に、なぜ気球による偵察が行われるのか?

 高橋室長は気球の二つのメリットを挙げる。

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ICBMを運用する米空軍基地が…