「フィリピンに荷物を運ぶ、高額なバイトがある」

「1週間で30万円から40万円、稼げますよ」

 そんな誘い文句にのって、フィリピンに渡ったのが2018年秋ごろ。指示されてたどり着いたのは、当初言われていた首都のマニラ(ルソン島)ではなく、観光地で有名なセブ島にある拠点だった。

 そこで待っていたのは、振り込め詐欺の電話をかける「かけ子」という仕事だ。

「怪しい仕事だとは思っていたが、『振り込め詐欺』とはびっくりだった。しかし、到着すると、全身入れ墨の男にパスポートやクレジットカードを取り上げられてしまった。実家まで把握されている。ヤバいがやるしかないと思った」

 最初は、他のかけ子の様子を見聞きしながらトレーニングをした。かけ子のキャリアがある日本人を相手に何度も練習。その様子を、入れ墨が入った日本人がずっと監視していた。Aさんはマニュアルを見て、必死で覚えたという。

 数カ月後、突然、セブ島からマニラに拠点が移った。マニラ・マカティ郊外にある廃業したホテルで、2019年11月に当局の摘発を受けることになる場所だった。

 そのころには、Aさんもかけ子として、毎日、日本に電話を繰り返していた。

 廃ホテルには、宴会場のような大きな部屋がいくつかあった。そこに10人くらいの日本人で一つの班を作る。

 はじめたばかりのかけ子は「1線」として、名簿を渡されて日本に電話をかける役割だ。Aさんも最初はここにいた。

「電話をかける相手の住所を見て、ネット検索などで最寄りの警察を調べる。相手が電話に出ると、『警察で捜査した詐欺グループの名簿にあなたの名前がある。すでに口座からお金が抜かれてしまったかもしれない。キャッシュカードを調べさせてほしい』などとマニュアル通りに聞き、不安にさせます。相手が信用すると『いくら口座にはありましたか』『銀行口座はいくつありますか』『家族はいますか、何人暮らしですか』などと細かく聞いていくんです」

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