■頭の中で内容を実写化に置き換えてしまう“癖”

Q:実際に映像化することを考えながら、作品を読み進めていたりするのでしょうか?

後藤:映像化といったときに僕は実写化を考えますね。頭の中で内容を実写化に置き換えてしまう癖がありまして。

馮:僕も実写が中心なのですが、アニメーションもプロデュースしたことがありまして。日ごろから、アニメ部の者とも話すのですが、ホラーとアニメってあまり相性がよくないんですよ。怖がらせる見せ方が非常に難しい。アニメってやっぱりキャラクターが魅力的で、そのキャラにファンがつくっていうのが商売の基本になったりする。そこが 多分、実写との大きな違いです。それで言うと、大賞の「ストロベリーミルクゴースト」は、キャラクターがいいっていう意味でアニメにも展開しやすいのかなと思いました。 漫画は映像化する上で素材です。その素材のどこに何を付与したら映像として面白くなるのかと常に考えています。

Q:マンガ部門で「もう少し手を入れたらもっといい作品になる!」と感じたり、原作部門で秀逸な作品だと思ったりした作品はありましたか?

馮:手を入れるとしたら「僕の欠片」(注:最終選考会に残った作品の一つ)です。「僕の欠片」は、ドッペルゲンガーの漫画ですが、2段階に分けているのが発明だな、と。まず、身体の一部を奪う、次に媒介していって全体を乗っ取る。その描き方がうまくミスリードに繋がっていて面白くて、左目と右目をどう面白く映像化するかって考えましたね。アメリカのホラー映画「アス」を想像しました。

後藤:僕も「僕の欠片」です。この作品にはすごく惹かれるところもあるんですが、何かが足りなかった、とも感じています。怪談話をしている場面から始まって井戸に行った体験をし、また戻ってきてというようなサンドイッチ構造になっています。想像でよかった部分と、逆に想像じゃないほうがよかった部分と考えた時、敢えて2ページ目からスタートさせてみる。冒頭のお爺さんの謎の感じは魅力的なので、これは作品の真ん中あたりに移動させてみるといった、今とは違う構成で組み直すことができたらもっと面白くなったのではないかな。どちらにしても、冒頭のお爺さんのインパクトがこのまま終わってしまっては勿体ないので、もっと伏線として生かせるんじゃないかと思いました。

馮:あと「共食いの作法」(注:最終選考会に残った作品の一つ)にも少し、手を入れたいです。引きこもりの人間が食べるものがなくなって、何か口にしなきゃいけない。でも、食べていたのが実は自分だったという、人肉を食べる発想が面白くて。そこを深掘りして、「食べるというテーマ性」をもっと持たせられたら唯一無二の作品にできるんじゃないかと思います。

後藤:原作の方は明確で、「20歳の自分へ」と「悪名轟かせ」。どっちかが大賞になるのだろうって思っていたぐらい、面白かった。ただ、もっともっと面白くできるぞ!というツッコミどころもあります。特に「悪名轟かせ」は、登場人物をファンタジックな方向に振るのかリアリティのある方向に持ってくるかで違ってきます。僕はあえてりリアルなほうへ持っていきたいと興味を持った作品です。

馮:「とある入江にて」が最高に素晴らしかったです。映像にしたときに、非常に面白くなると思います。物語としても、シチュエーション・スリラーとして秀逸だなと思ったのと、「カツオノエボシ」が群れで出てくるのですが、映像だとめちゃくちゃ気持ちが悪いだろうと。でも、これが水に浮かんでいて、夜の時間帯で発光していたりしたらすごく美しい映像ができるかなと思ってみたり。皆さんの議論の中で出ましたけれど、徐々に大きくなったりとか、人を食ったりするような、ちょっとクリーチャー的な要素を持たせることで、より怖さも出せるのかなと思いました。映像にしたときに遊ぶ余地はたくさんあるという意味では、素晴らしかったです。

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