■小さく切除するほうが生存期間が長くなることが明らかに

 肺がんの治療方法は、主に手術、放射線治療、薬物治療があり、組織型、病期(ステージ)、遺伝子変異、肺機能などの全身状態によって決まります。小細胞がんは、ほとんどの場合進行がんで見つかり、薬物治療が中心となり、治療方針がほかの組織型と大きく異なるため、小細胞がん以外のがんをまとめて「非小細胞がん」と呼んで区別します。

 非小細胞がんは、ステージI期とII期、III期の一部が手術の対象となります。しかし、肺がんの人は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や間質性肺炎などを合併していることが多く、機能が低下している人が少なくありません。早期でも過度に肺を切除しすぎると、酸素療法が必要になったり、寝たきりになったりする可能性があります。

「エアコンのフィルターをイメージしていただくとわかると思いますが、生まれて呼吸をするようになった時点から、肺は汚れていきます。そして喫煙や空気汚染などによって、個人差は大きくなっていきます。このため、それぞれの肺機能を評価したうえで治療方針を検討することが重要なのです」(遠藤医師)

 肺は左右の胸にあり、右の肺は三つ、左の肺は二つの「肺葉」に分かれています。手術の方法は、切除範囲によって、片方の肺をすべて切除する「全摘」、がんのある肺葉ごと切除する「肺葉切除」、肺葉内のがんのある区域だけを切除する「区域切除」、ごく早期の場合にがんの周囲を楔形(くさびがた)に切除する「部分切除」があります。

 これまで肺がん手術は、「肺葉切除」が標準治療とされてきました。1980年代に米国で実施され、95年に発表されたこれまで唯一の臨床試験で、肺葉切除とそれよりも小さく切除する縮小手術(区域切除や部分切除)とを比較したところ、肺葉切除のほうが生存率が高く、再発率が低いという結果が出たためです。

 しかし近年は、CT検査の普及やPET検査など診断機器の進歩により、2センチ以下の小型肺がんが爆発的に増加しています。がんを取り切る(根治性)という意味では、大きく切除したほうが確実ですが、その分、術後の肺機能をはじめ、重要な臓器の機能が低下します。

 そこで、国内で2センチ以下の非小細胞がんに対して肺葉切除と区域切除を比較する大規模な試験を実施したところ、「区域切除のほうが肺葉切除よりも全生存期間(治療開始日からの生存期間)が有意にすぐれている」という結果が出て、2022年4月に世界的な医学雑誌『ランセット』で発表され、世界に衝撃が走りました。

次のページ
再発リスクより「機能温存」のメリットが上回った