北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

 仁藤さんのそもそもの原点は、東日本大震災後のボランティア活動だ。大学生だった仁藤さんは、宮城県石巻市の避難所で長期滞在し、避難所で出会った高校生たちの声を聞いてきた。高校生たちの「何かしたい」という思いを支援しようと、地元の製菓会社にかけあい、女川高校の生徒たちと「たまげ大福だっちゃ」という和菓子のプロデュースに奔走した。「たまげ大福だっちゃ」は、2011年の9月に発売されたが、被災地の高校生が自ら復興支援にたちあがったこの活動を、多くのメディアが希望として報道したものだった。Colaboは、このプロジェクトをきっかけにつくられた。

 仁藤さん自身が、街をサバイブしてきた女の子だった。「15歳でも働けるよ」と街で男に誘われ、はやり始めていたメイドカフェでアルバイトをしたこともある。「ずっと、身を守ることばかり考えていました」と取材中に話してくれたことが、私の心には残っている。そういう仁藤さんの人生を変えたのが、フィリピン旅行をしたときに見た日本人の買春男性たちだった。彼らは、かつて渋谷で女子高校生だった自分に声をかけてきた男たちと同じ顔をしていたという。なぜ渋谷で起きていることと、フィリピンで起きていることが同じなのだろう。社会の仕組みを知りたい。そういう思いで必死に学び、大学卒業間際の3ケ月間で書き上げたのが『難民高校生』(英治出版)だ。手にした印税75万円を頼りに、大学卒業後も就職ではなくColaboの活動を続けてきたのだ。

 仁藤さんが大学を卒業した翌年、2014年にアメリカ国務省は、日本のJKビジネスが人身取引の温床になっているとの調査報告を発表している。当時、秋葉原を中心にJKを売りにした散歩や、添い寝、マッサージなどの店が次々にオープンしていた。「観光の仕事」というアルバイトかと思って応募したら、男性客に「性器触ったらいくら?」「キスはいくら?」などと聞かれる、男たちが交渉できる店だったりすることは、よくある話、だった。そういうなか、仁藤さんは夜の街に出かけては、「帰るとこある?」「ご飯食べてる?」と女の子たちに声をかけ始めた。時には自宅に泊め、食事を作り話を聞き、必要な支援につなげることもあった。警察に保護された女の子を迎えに行ったことは数え切れない。

次のページ
「キモイ」というセンサー