トークイベントの様子。左が杉江松恋さん、右が小川哲さん
トークイベントの様子。左が杉江松恋さん、右が小川哲さん

 これの何が大きいかというと、話が聞けるのは当然として、僕が好き勝手に原稿を書いたとしても彼らがチェックし「これはプレイヤーとしてありえない」というのを教えてくれるっていう保証が大きいんですね。クイズプレイヤーが何を考えて、どういう風にボタンを押して、といったことは、僕はクイズプレイヤーではないから、全部想像で書くしかない。「これでいいのかな?」と思いながら書くのと、「もしも間違っていたら教えてくれる人がいる」って思っている状態で書くのって、違うんです。クイズについては2人に相談しつつ、原稿も読んでもらいました。でもクイズプレイヤーの心理などについてはほとんど何も言われなくて、「この問題はこの文字では確定してないです」とか「もうちょっと前で確定しています」とか結構テクニカルな修正が入りましたね。

杉江:それは「確定ポイント」ですね。まだ『君のクイズ』を読んでいない方に説明すると、問題を聞いているうちに、途中で、論理的に何を答えるかがわかるところがある。それを確定ポイントと言うんです。『君のクイズ』の中では大事なテーマですから、肝腎の確定ポイントが間違っているとクイズに関するディテールがおかしいということで作品の評価が辛くなることもありえますよね。

■ワインと一緒で日によって変わる「確定ポイント」

小川:確定ポイント自体も、ワインと一緒で、日によって変化するというか……他のクイズによっても変わっていくんですよ。帯に言葉をいただいたクイズプレイヤーの山上大喜くんが面白いことを言っています。『君のクイズ』は「白い光の中にいた。」っていう一文から始まるんですが、「旅立ちの日に」という合唱曲は「白い光の中に~」という歌詞で始まるんです。その合唱曲の問題の確定ポイントがこの小説の書き出しによって変わったと言っていました。これまでは「白い光の中に」と問題が出されたら、ピンポンと押して「旅立ちの日に」って答えればよかったのが、今では答えが『君のクイズ』の可能性もある。そういう風に日々変わっていくものがクイズだ、と。

杉江:観測者の存在が実験結果に影響を及ぼすようなものですね。

小川:『君のクイズ』もすでに実際クイズの問題になっているみたいなので。山上くんのアイデアからすると、僕はこの本によって一つのクイズの確定ポイントを変えるって試みをしているわけですね(笑い)。

杉江:「スラムドッグ$ミリオネア」という映画がありますが、読者の中にはそれを思い浮かべる方も多と思います。これはあちこちで聞かれるでしょうが、映画との関係を教えてください。

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クイズの本質的な魅力とは?