小川哲著『君のクイズ』(朝日新聞出版)※Amazonでほんの詳細を見る
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小川:昔一度、この映画は観たことがあります。まず、『君のクイズ』の構成をこうしたのは、「一番気持ちがよかった正解のシチュエーション」を田村正資くんから聞いたことがありますね。「クイズに出題されるとは思っていなかった自分の個人的な経験が問題に出たときがあって“正解”って言われた時に嬉しかった」という話です。やっぱりクイズの一番の魅力はそこなんだろうって感じました。自分がテレビ番組を見ながらぼんやりとクイズを解いている時も、「自分が生きてきたこと」で、「この答えを知っている!」ってなるとちょっと嬉しい。自分が個人的に知っていたことが、番組だったり競技だったりの中で問題として出されて、自分の人生の経験がそこに役立って正解ができるっていうのがクイズの本質的な魅力だと思ったんです。

杉江:なるほどね。

小川:「スラムドッグ$ミリオネア」も基本的にはそういう構成の話で、主人公はクイズの正解についてイカサマなんじゃないかって疑われますが、こういう理由で正解できたんですっていう、その人の人生を語ることになっている。本質的な部分では一緒で、クイズにとってそれが一番本質的な魅力だったら「スラムドッグ$ミリオネア」と少し被ることは気にすることではなく、むしろ誇らしいことだと。ただ、「スラムドッグ$ミリオネア」は「正解」に焦点があって、『君のクイズ』の場合は、「クイズ」に焦点があります。「正解すること」と「クイズに強くなること」は似ているようで大きく違う。だからこそ、読者の視点から見えてくるものは、まったく違った体験になるのではないでしょうか。

杉江:題材の本質をついているから、同じ構造になるっていうのはすごく面白いお話です。ある意味、小説というもののフィクションの在り様の原点にあることのような気がします。元々、小説は、歴史を個人の立場から語り直しているものが原型です。そこにフィクションをどうやって盛り込むかっていうことはあっても、起きていること自体は変えられない。

■同じ人間がしている行為は、結びつけられる

小川:被るから別の方式にするのは結局、僕のエゴで奇をてらっていることになる。新しいことやっているって思われたいだけ。それが一番の本質なんだったら、それで書こうというのが僕の今の考えです。

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小川哲さんが小説を書く基本的なモチベーションとは?