昨年の「M-1グランプリ2021」で優勝した錦鯉
昨年の「M-1グランプリ2021」で優勝した錦鯉

 漫才の祭典『M-1グランプリ』はいまや国民的行事であり、年末の風物詩である。『M-1』の決勝進出者が発表されるニュースを聞くと、そろそろ今年も終わりか、と思う。

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 11月30日、『M-1グランプリ2022』の決勝進出者が発表された。準決勝を勝ち抜いて決勝への切符を手にしたのは、ウエストランド、カベポスター、キュウ、さや香、真空ジェシカ、ダイヤモンド、男性ブランコ、ヨネダ2000、ロングコートダディの9組。彼らに敗者復活戦の勝者1組を加えた10組が、12月18日に行われる決勝に挑むことになる。

 お笑い好きの間では、今年の予選はいつになく厳しいと言われていた。有名な芸人、決勝の常連、ファイナリスト経験者などが、続々と敗退していったからだ。もも、モグライダー、ランジャタイなどの昨年のファイナリストは、準決勝にすら進めずに姿を消した。

 ゆにばーす、オズワルド、インディアンス、見取り図、ミキ、カミナリといった複数回決勝を経験している常連組も敗れてしまった。中でも、昨年まで3年連続で決勝に進んでいて優勝候補とも噂されていたオズワルドとインディアンスの敗退は衝撃を与えた。

 ただ、有名な芸人が負けているからといって、今年の決勝のレベルが下がるわけではない。むしろ実情はその逆であり、レベルが上がりすぎているせいでそのような事態が起こっているのだ。

 芸人やお笑い業界関係者やある程度のお笑いファンなら誰でも知っていることだが、ここ数年の『M-1』は大変なことになっている。出場する芸人の全体的なレベルが上がりすぎて、飽和状態に陥っているのだ。

 2001年から2010年まで行われていた第一期『M-1』では、出場資格が芸歴10年以内と定められていた。一方、2015年以降の第二期『M-1』では、芸歴15年以内ということになり、参加できる芸人の幅が広がった。

 その結果、技術的なレベルが高くなり、競争は激化した。第一期には「粗削りだけど光るものを持っている」というタイプの芸人が決勝に行ける余地が残っていたが、第二期にはそんな雰囲気は全くない。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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