逆に、「同じこと」を続けていたら、すなわち「集中系」と「分散系」のどちらかしか使っていない状態が続いていたら、脳はどんどん疲弊していく。

 「今の自分の活動は、集中系と分散系のどちらを使っているのか」を考え、意識的に切り替えてみるといいだろう。本書『忘れる脳力』で、集中系と分散系、それぞれの活動例をまとめたリストを掲載している。

 集中系の過剰な活性化は、その部位に劣化したタンパク質や活性酸素などの蓄積を招き、細胞死につながっていく。さらに、ノルアドレナリンやドーパミンを分泌する細胞たちへの過剰な負担からその疲弊をもたらし、これらの細胞死も招くことになり、やがて集中系の機能低下につながってしまう。

 脳の細胞が死んでいく「神経変性疾患」のうち、パーキンソン病やある種の認知症では、病前性格として「生真面目」 「律儀」などの傾向が挙げられている。こういった性格は周囲の人々から高く評価されるが、集中系が長い時間、過剰に活性化しやすいため、その弊害が起こってくると考えられる。まじめな性格ゆえに、「きちんと仕上げるまで」「ひと区切りつくまで」と、一つの仕事に集中して作業を続けてしまう。

 そのため「疲れた」 「飽きた」と仕事を一旦放り出して休んだり、違うことをして息抜きをしたりする、といったことができないわけだ。これだと長い目で見れば、脳の働き方に、集中系の過剰な活性化という偏りが生じてしまうだろう。

 このように、集中系・分散系のどちらかへの偏りは脳に悪影響を及ぼすため、意識的に避けるようにしたい。偏りをなくすために、集中系を使いがちな人は、のんびり散歩やぼーっとする時間を作ることで分散系を活性化させてみると良いだろう。

 《健全な脳機能を維持するためには、睡眠や食習慣、そして“適切な記憶の管理”も重要だ。『忘れる脳力』(朝日新書)で詳述している》