阪神の藤浪晋太郎
阪神の藤浪晋太郎
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 8月13日、藤浪晋太郎(大阪桐蔭→阪神)と小笠原慎之介(東海大相模→中日)の甲子園優勝投手同士が投げ合った。そこで感じたのが「甲子園優勝投手は大成しない」というジンクスだ。過去に甲子園で優勝した投手のプロ入り後の成績を追ってみた。

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 藤浪と小笠原の対決は、甲子園優勝投手の意地をかけた投手戦だった。藤浪が最速160キロのストレートとスプリットを武器に、7回10奪三振。小笠原は最速150キロのストレートとチェンジアップを駆使して7回11奪三振。試合はスクイズの援護で小笠原に軍配が上がった。

 藤浪は入団以来3年連続の2ケタ勝利をあげたが、以降は制球難に苦しみ、今年も開幕投手を任せられながら、ようやく8月20日に初勝利を挙げたところである。プロ10年目で通算55勝は、活躍していると判断できるかどうか微妙なところだ。一方の小笠原は、昨年初めて規定投球回に達して8勝をあげた。プロ7年目の今年は6勝と活躍している。

(以下の記録は昨年終了時点)

 甲子園優勝投手は200人近く存在する。ドラフト制以前では、春の優勝投手・王貞治(早稲田実→巨人)や夏春連覇の優勝投手・柴田勲(法政二→巨人)は打撃を生かして野手に転向した。ドラフト制以降でも春夏連覇の投手・加藤英夫(中京商=現・中京大中京)、石井毅(箕島)、島袋洋奨(興南)らはプロで大成しなかった。江川卓(作新学院)を破った佃正樹(広島商)はプロ入りさえしていない。

 ドラフト制後の甲子園優勝投手のプロ最多勝は、201勝の平松政次(岡山東商→大洋)。100勝以上の選手は、日米181勝の田中将大(駒大苫小牧→楽天ほか)、173勝の桑田真澄(PL学園→巨人)、日米170勝の松坂大輔(横浜→西武ほか)、101勝の野村弘樹(PL学園→横浜)のわずか5人しかいない(記録は2021年まで)。ドラフト以前では、237勝の野口二郎(中京商→阪急ほか)、178勝の真田重蔵(海草中→松竹<=現・DeNA>ほか)、107勝の尾崎行雄(浪商→東映=現・日本ハム)、103勝の池永正明(下関商→西鉄=現・西武)のわずか4人だ。

「プロ通算100勝を大成」と定義した場合、甲子園優勝投手が約100年間で200人近くいて、計9人では、まさに「10年にひとり」「20人にひとり」となる。やはり「大成しない」ジンクスは生きているのだろう。

 現プロ野球界で、甲子園優勝投手は18人存在する。32勝の福井優也(済美→早大→広島→楽天)、東浜巨(沖縄尚学→亜大→ソフトバンク)、小島和哉(浦和学院→早大→ロッテ)、村上頌樹(智弁学園→東洋大→阪神)、徳山壮磨(大阪桐蔭→早大→DeNA)らは大学に進んだ。大阪桐蔭の出身選手は、ほかに藤浪、根尾昂(大阪桐蔭→中日)、柿木蓮(大阪桐蔭→日本ハム)らがいる。野手転向組は堂林翔太(中京大中京→広島)、平沼翔太(敦賀気比→日本ハム→西武)、石川昂弥(東邦→中日)。高校野球では、身体能力がチームで傑出している「エースで強打者」の選手が多いのも特徴だ。先述した王貞治や柴田勲がその代表格である。ただ正直、堂林も平沼も期待通りの活躍とは言い難い。勝ち星をみれば、181勝の田中は別格で、それに続くのが54勝の藤浪、53勝の東浜、43勝の高橋光成(前橋育英→西武)、32勝の福井、24勝の小笠原、23勝の今井達也(作新学院→西武)だ。東浜は2017年に最多勝のタイトルを獲得、今季はノーヒットノーランを達成した。

 まだこれからの投手が多いとはいえ、「大成した」と判断できる選手は少ない印象だ。やはり「大成は難しい」と言わざるを得ないのが実情である。

 野手専念から投手に転向した根尾、そして22年春の優勝投手である川原嗣貴(大阪桐蔭)がプロ入りしたら、ジンクスを破ってもらいたいものだ。(新條雅紀)