「タイ国内では日本ボクシング界の危機管理を含め大問題になりました。サーカイの葬儀にも参列しましたが、本当に気の毒でしたし、ボクシングは残酷だとも思いました。危機管理に関しては注意し過ぎることはない、と認識を強くしました。辰吉が関わったボクサーというのも何かの縁を感じました」

 ライセンスの問題はあるが、もちろん安河内氏は辰吉をボクサーとして高く評価している。技術やメンタルはもちろん、「人間的に素晴らしい男」と語る。リング上の強さを誇示することなく、自分自身を客観視して周囲の期待に応えることができる。辰吉の周りに人が集まる理由がわかるという。

「2011年の震災後の興行時、過去の世界チャンプに声をかけ募金をやりました。辰吉も来てくれた。ギャラも出ないのに、試合後までファンに優しく丁寧に接していました。世界チャンプとして理想的な振る舞い、そして男気を感じさせました。自分の役割、何をすべきなのかを瞬時に理解できる賢い人間とも思いました」

「ボクシングには人間性がそのまま出ます。辰吉のファイトスタイルは、ケレン味がないというか誤魔化すようなことがなかった。リング上での姿が辰吉そのものだと改めて思いました。ボクサーを続けるのが非現実的という問題は抜きにして、1人の男として羨ましく感じました」

「家族、ファンを含め周囲の気持ちも伝わってきます。『辰吉にやらせてあげて欲しい』という熱意を感じます。みんなが辰吉の輝きを見ていたいのではないか。辰吉本人が命を懸けてまで追いかけ続ける夢を、守ってやりたいのではないでしょうか」

 安河内氏自身もプロボクサーのC級ライセンスを持っている。ひとりのボクサーとしては辰吉を心から尊敬しており、ファンであることも否定しない。しかしコミッションの立場からすれば、そういう私情は関係ない。2つの思いを抱えながらも、冷静に判断、行動せざるを得ない。

「子供の時にボクシングを始めてから同じ思い、明確な夢を持っている。それが辰吉の生き様なんでしょう。人間として本当に素晴らしいと思います。でもコミッションとしては、感情移入したりファンになってしまうと必ずミスにつながると思うので切り離さないといけません」

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ボクシングほど「死」と隣り合わせのものはない