JR西日本は新型ホームドアの試験運用を2016年に山陽新幹線の新神戸駅で開始し、翌年、実用化にこぎつけた。

 JR東海が現在のタイプのホームドアを新幹線に設置したのはそれよりも早い。

「12年3月に東海道・山陽新幹線から300系車両が引退して扉位置がほぼ統一されたことなどにより、12年度からお客様のご利用の多いのぞみ停車駅にて可動柵設置を進めています。22年12月の新大阪駅20番線の可動柵の供用開始により、すべてののぞみ停車駅への可動柵設置が完了いたします。なお、のぞみ停車駅以外の駅への可動柵設置の予定は現時点ではありません」(JR東海)

安全に対するコストと利益

 一方、この回答について、日本大学理工学部交通システム工学科の轟朝幸教授はこう指摘する。

「これまでも新幹線にはかなりの人員を配置していますし、安全管理には非常に気を配ってきました。実際、転落事故や接触事故はほとんど起こっていません。ただ、新幹線は安全性を大きくアピールしているだけでなく、かなりの過密ダイヤで運行します。ホームドアの設置が難しいのは理解できますが、もしも、転落事故が起きれば相当な影響があります」

 ホームドアの設置はプラットホームの補強や動線確保のための施設改良、エレベーターの設置などを含めてバリアフリー化の一環として行われる。

「ホームドアを設置するには莫大な費用がかかりますが、設置したからといって乗客は増えない。つまり、収入も増えません」(轟教授)

 安全に対するコストと利益をどう考えるかは非常に難しい。JR東海にとって東海道新幹線は稼ぎ頭だが、売上高はコロナ前と比較すると大きく落ち込んだままだ。「鉄道会社はいま、どこも大変なんですよ」(同)。

 そこで国交省鉄道局の担当者の言葉を思い出した。

「既存駅へのホームドア設置については、各鉄道事業者の経営判断のなかで、一生懸命にやっている作業になると思います」

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)